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過払い金に関する最高裁判例のページです。

過払金請求

  過払金請求に関する重要裁判例(最高裁判所判決等)を実装しました。

 支配人登記された信販会社の地区本部の管理課長がした訴訟代理行為(仙台高判昭和59年1月20日判例タイムズ520号149頁)

1,信販会社東北地区本部の管理課長が支配人として選任・登記されている場合,その者がした訴訟代理行為は適法か(消極)
2,右の者がした訴訟代理行為は追完追認により有効になるか(消極)
       主   文
 本件控訴を却下する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴人は,「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し六二万七三〇〇円及びこれに対する昭和五七年三月二〇日から完済まで日歩八銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め,被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
証拠関係〈省略〉
       理   由
 本件控訴状の記載によれば,本件控訴は控訴人代理人支配人αによって提起されたものである。記録中のいわゆる資格証明によれば,αは控訴人仙台支店の支配人として登記されていることが認められる。
 当裁判所に係属する当庁昭和五八年(ネ)第一二四号事件の審理(証人βの証言)により次の事実が当裁判所に職務上顕著である。
 控訴人東京本社は直轄機関として仙台に控訴人東北地区本部が置かれており,右地区本部は東北六県にある控訴人の七支店及び一一営業所の業務を統括しているが,営業店ではない。右地区本部には本部長,副本部長が置かれ,その下に管理課,営業課,事務課及び総務課があり,αは昭和五四年一月一二日から管理課長の職にある。管理課長の主な職務は,債権回収業務について東北地区の支店及び営業所を監督指導すること及び各支店等の与信枠を超える額の契約について審査することにある。
 商法第三七条以下に規定される支配人とは営業主により本店又は支店の営業の主任者として選任された商業使用人をいうものである。支店の場合は支店長のみがこれに当り,支店次長も支店長代理も支配人すなわち営業の主任者ではない。まして,支店長の下にある部課長は支配人ではありえない。控訴人東北地区本部は東北六県の支店・営業所を統括する機関で,営業店ではないから,右地区本部が商法上の「支店」といいうるかは疑問の存するところであるけれども,仮に支店といえるとした場合,地区本部長は支配人に該当するといえようが,その下にある一課長は決して支配人であるとはいえない。右課長は,営業全般の包括的代理権を有する支配人とは異なり,支配人の下にあって営業の一部門の代理権を有する商業使用人で,商法第三八条第二項に規定される「番頭」に該当する。従って,東北地区本部の管理課長であるαは支配人ではない。
 支配人は裁判上代理権を有するものであるけれども,実質上支配人でない者を支配人として登記しても,その者が支配人として裁判上代理権を有することにはならない。控訴人がαを支配人として登記したのは,支配人が裁判上代理権を有することに目をつけて,実質上支配人でない者を支配人として登記して裁判上の行為をなさしめることを目的としたもので,民事訴訟法第七九条の制限を潜脱する違法行為である。
 以上の次第で,本件控訴は裁判上代理権のない者が提起した不適法な控訴でその欠缺を補正することができないものであるから,これを却下することとし,民事訴訟法第九五条,第八九条を適用して主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官佐藤幸太郎,裁判官石川良雄,同宮村素之

 金銭不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任(最判平成3年11月19日民集45巻8号1209頁)

ア金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任
イ不当利得者が利得に法律上の原因がないことの認識後の利益の消滅と返還義務の範囲
       主   文
 一 原判決中,予備的請求に関する上告人の敗訴部分を破棄し,右部分に関する第一審判決を取り消す。
 二 被上告人は上告人に対して,一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 上告人のその余の上告を棄却する。
 四 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。
       理   由
 一 上告代理人佐治良三の上告理由第一点について
  所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するものにすぎず,採用できない。
 二 同第二点について
  1 原審は,(一) 被上告人は,上告人との間で普通預金契約を締結していたが,昭和五九年二月二一日,被裏書人として所持していた額面一七〇〇万円の本件約束手形に取立委任裏書をしてこれを上告人に交付し,その取立てを委任するとともに,本件約束手形が支払われたときは,その金額相当額を被上告人の右普通預金の口座に寄託する旨を約した,(二) 本件約束手形は不渡りとなったが,上告人は,確認手続における過誤により,本件約束手形が決済されて右普通預金口座に本件約束手形金相当額の入金があったものと誤解し,被上告人の普通預金払戻請求に応じて,同月二七日午後一時五〇分ころ一七〇〇万円を支払った,(三) 上告人は,同日午後二時五〇分ころ右過誤に気付き,同日午後四時三〇分ころ被上告人に対し,右事実を告げて払戻金の返還を請求した,(四) 本件約束手形に順次裏書をした訴外甲,同乙らと被上告人とは,当時,経済的に密接な一体の関係にあった,(五) 甲が営んでいた事業は同年一〇月ころ倒産し,そのころ同人は所在不明となった,との事実を適法に確定した。
  2 原審は,右事実関係の下において,(一) 上告人の被上告人に対する払戻しは法律上の原因を欠くものであり,被上告人は上告人の損失によって利益を得た,(二) 被上告人は,本件払戻しを受けた時においては,これが法律上の原因を欠くことを知らなかった,(三) 被上告人は甲から本件約束手形の取立てを依頼されてその裏書を受けたものであって本件払戻金は被上告人が受領後直ちに甲に交付した,との被上告人の主張事実は,これを認めることができず,仮に右払戻金が受領後直ちに甲に交付されたとしても,金銭の利得による利益は現存することが推定されるのであって,経済的に密接な一体者間の内部的授受によっては,未だ授与者の価値支配は失われないとみるべきであるから,甲への金銭交付をもって利益が現存しないものということはできない,(四) 右によれば,利益が現存しないとの被上告人の主張事実は認められないから被上告人に対して払戻しを受けたと同額の一七〇〇万円の返還を命ずべきところ,現存利益の範囲は不当利得制度における公平の理念に照らして物理的な利益のほか,当該不当利得関係発生の態様,受益の不当性及び原因欠缺に対する注意義務の懈怠等について,利得者及び損失者双方の関与の大小・責任の度合い等の事情をかれこれ勘案考量し,具体的公平を図るべきものであり,これを本件についてみるのに,本件紛争の端緒は本件手形の決済の確認に際して上告人が誤って処理済みであるとしたことにあり,これは大手都市銀行としてはまことに杜撰な措置であったというべきものであるから,本件払戻し前後の経緯においては被上告人側に多分に不審又は不誠実な言動が見られるものの,これらの事情をかれこれ比較考量すると,被上告人が上告人に返還すべき現存利益は,前記一七〇〇万円の約四割に当たる七〇〇万円と認定するのが相当であり,これを超える一〇〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める上告人の請求は失当である,と判断した。
  3 しかし,原審の右判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
    すなわち,前記事実関係によれば,本件約束手形は不渡りとなりその取立金相当額の普通預金口座への寄託はなかったのであるから,右取立金に相当する金額の払戻しを受けたことにより,被上告人は上告人の損失において法律上の原因なしに同額の利得をしたものである。そして,金銭の交付によって生じた不当利得につきその利益が存しないことについては,不当利得返還請求権の消滅を主張する者において主張・立証すべきところ,本件においては,被上告人が利得した本件払戻金を甲に交付したとの事実は認めることができず,他に被上告人が利得した利益を喪失した旨の事実の主張はないのである。そうすると,右利益は被上告人に現に帰属していることになるのであるから,原審の認定した諸事情を考慮しても,被上告人が現に保持する利益の返還義務を軽減する理由はないと解すべきである。
    なお,原審が仮定的に判断するように,被上告人が本件払戻金を直ちに甲に交付し,当該金銭を喪失したとの被上告人の主張事実が真実である場合においても,このことによって被上告人が利得した利益の全部又は一部を失ったということはできない。すなわち,善意で不当利得をした者の返還義務の範囲が利益の存する限度に減縮されるのは,利得に法律上の原因があると信じて利益を失った者に不当利得がなかった場合以上の不利益を与えるべきでないとする趣旨に出たものであるから,利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は,返還義務の範囲を減少させる理由とはならないと解すべきところ,本件においては,被上告人は本件払戻しの約三時間後に上告人から払戻金の返還請求を受け右払戻しに法律上の原因がないことを認識したのであるから,この時点での利益の存否を検討すべきこととなる。ところで,被上告人の主張によれば,甲に対する本件払戻金の交付は本件約束手形の取立委任を原因とするものであったというのであるから,本件約束手形の不渡りという事実によって,被上告人は甲に対して交付金相当額の不当利得返還請求債権を取得し,被上告人は右債権の価値に相当する利益を有していることになる。そして,債権の価値は債務者の資力等に左右されるものであるが,特段の事情のない限り,その額面金額に相当する価値を有するものと推定すべきところ,本件においては,甲に対する本件払戻金の交付の時に右特段の事情があったとの事実,さらに,被上告人が本件払戻しに法律上の原因がないことを認識するまでの約三時間の間に甲が受領した金銭を喪失し,又は右金銭返還債務を履行するに足る資力を失った等の事実の主張はない。従って,被上告人は本件利得に法律上の原因がないことを知った時になお本件払戻金と同額の利益を有していたというべきである。
    そうすると,前記事実関係の下において,被上告人の利得した一七〇〇万円のうち一〇〇〇万円について,同金額及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した原審の判断には,民法七〇三条の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。従って,論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,前記説示に照らせば,右部分の請求を棄却した第一審判決を取り消し,一〇〇〇万円及びこれに対する履行の請求を受けた日の後である昭和五九年五月一二日から支払済みまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分についても上告人の請求を認容すべきものである。
 三 よって,民訴法四〇八条,三九六条,三八六条,三八四条,九六条,八九条に従い裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
        最高裁裁判長裁判官佐藤庄市郎,裁判官坂上壽夫,同貞家克己,同園部逸夫,同可部恒雄

 貸金業法の「貸金業」の意義(最決平成8年12月24日裁判集刑事269号773頁)

貸金業の規制等に関する法律にいう「貸金業」の意義
       主   文
 本件上告を棄却する。
       理   由
 弁護人小野哲及び伊多波重義の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない(貸金業の規制等に関する法律二条一項にいう「貸金業」とは,反覆継続の意思の下に金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介を行うものをいうのであり,所論のような営利を目的とし特別の設備を備えるなど一個の業態として行うことまで必要としないのであって,本件貸付け行為が同法一一条一項の貸金業を営むことに当たるとした原判断は,是認できる。)。
 よって,刑訴法四一四条,三八六条一項三号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
  平成八年一二月二四日
    最高裁裁判長裁判官河合伸一,裁判官大西勝也,同根岸重治,同福田博

 手形割引と利息制限法(最判昭和48年4月12日金融・商事判例373号6頁)

手形割引と利息制限法
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
       理   由
 上告代理人石田市郎の上告理由について。
 本件各約束手形は,上告人石橋食品工業株式会社が商品売買代金支払いのために振り出したいわゆる商業手形であって,被上告人は,上告人株式会社永松商店の代表者上告人永松亀一からその現金化を依頼され,原判示の割引料名義の金額を差し引いた金員を交付して,右手形の裏書譲渡を受けたものであり,右手形の授受は手形自体の価値に重点を置いてなされたものであり,手形以外に借用証書の交付や担保の提供はなされなかったなど,原審の確定した事実関係のもとにおいては,上告人株式会社永松商店と被上告人との間の本件各約束手形の授受はいわゆる手形の割引として手形の売買たる実質を有し,前記金員の交付は手形の売買代金の授受にあたるものであって,これについては利息制限法の適用がないとした原審の認定判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用できない。
 よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条,九三条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官大隅健一郎,裁判官藤林益三,同下田武三,同岸盛一,同岸上康夫

 利限法超過利息・損害金を支払った場合と超過部分の元本充当により債務完済後に返還を請求の可否(最判昭和43年11月13日民集22巻12号2526頁)

利息制限法過利息・損害金を支払った場合と超過部分の元本充当により債務完済後に返還を請求の可否
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人三輪長生の上告理由一及び二について。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは,右制限をこえる部分は,民法四九一条により,残存元本に充当されるものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところであり(昭和三五年(オ)第一一五一号,同三九年一一月一八日言渡大法廷判決,民集一八巻九号一八六八頁参照),論旨引用の昭和三五年(オ)第一〇二三号,同三七年六月一三日言渡大法廷判決は右判例によって変更されているのであって,右判例と異なる見解に立つ論旨は採用できない。
 同三について。
 思うに,利息制限法一条,四条の各二項は,債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払ったときは,その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが,この規定は,金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。何故なら,元本債権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく,従って,利息・損害金の超過支払ということもあり得ないからである。この故に,消費貸借上の元本債権が既に弁済によって消滅した場合には,もはや利息・損害金の超過支払ということはありえない。
 従って,債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると,計算上元本が完済となったとき,その後に支払われた金額は,債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから,この場合には,右利息制限法の法条の適用はなく,民法の規定するところにより,不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
 今本件についてみるに,原判決の認定によれば,亡甲は上告人に対する消費貸借上の債務につき利息制限法所定の利率をこえて判示各金額の支払をなしたものであるが,その超過部分を元本の支払に充当計算すると,既に貸金債権は完済されているのに,甲は,その完済後,判示の金額を上告人に支払ったものであって,しかも,その支払当時債務の存在しないことを知っていたと認められないというのであるから,上告人に対して完済後の支払額についてその返還を命じた原審の判断は,正当である。それ故,論旨は採用できない。
 よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条に従い,裁判官横田正俊,同入江俊郎,同城戸芳彦の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官横田正俊の反対意見は,次のとおりである。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息,損害金を任意に支払ったときは,同法一条,四条の各二項により,債務者において制限超過部分の返還を請求することができないばかりでなく,右制限超過部分が残存元本に充当されるものでもないと解すべきである。その理由については,前掲昭和三五年(オ)第一一五一号,同三九年一一月一八日言渡大法廷判決(民集一八巻九号一八七六頁)における私の反対意見を引用する。
 然るに,原判決の認定によれば,亡甲が上告人に対する債務について支払った原判示の各金額は,天引された利息を除き,すべて損害金として任意に支払われたものと解されるのにかかわらず,原審は,右支払額中同法四条一項所定の制限をこえる部分を元本に充当計算し,その結果上告人の貸金債権は弁済により消滅したものと判断して,上告人のした代物弁済の予約完結による建物の所有権取得を無効とし,かつ,右充当計算による元本完済後の支払額の返還を上告人に命じているのであって,原判決は同法四条二項の解釈適用を誤ったものというべきであり,所論は理由がある。よって,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻す。
 裁判官入江俊郎,同城戸芳彦は,裁判官横田正俊の右反対意見に同調する。
          最高裁判所裁判長裁判官横田正俊,裁判官入江俊郎,同奥野健一,同草鹿浅之介,同長部謹吾,同城戸芳彦,同石田和外,同田中二郎,同松田二郎,同岩田誠,同下村三郎,同色川幸太郎,同大隅健一郎,同松本正雄,同飯村義美

債務者が元本及び利限法超過の利益・損害金を支払った場合と不当利得返還(最判昭和44年11月25日民集23巻11号2137頁)

債務者が元本及び利限法超過の利益・損害金を支払った場合と不当利得返還請求の許否
       主   文
 原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人阿部一雄の上告理由第二点について。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは,右制限をこえる部分は,民法四九一条により,残存元本に充当されるものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところであり(昭和三五年(オ)第一一五一号,同三九年一一月一八日言渡大法廷判決,民集一八巻九号一八六八頁参照),また,債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると,計算上元本が完済となつたとき,その後に支払われた金額は,債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならず,不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきことも当裁判所の判例の示すところである(昭和四一年(オ)第一二八一号,同四三年一一月一三日言渡大法廷判決,民集二二巻一二号二五二六頁参照)。そして,この理は,債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を,元本とともに任意に支払つた場合においても,異なるものとはいえないから,その支払にあたり,充当に関して特段の指定がされないかぎり,利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金はこれを元本に充当し,なお残額のある場合は,元本に対する支払金をもつてこれに充当すべく,債務者の支払つた金額のうちその余の部分は,計算上元利合計額が完済された後にされた支払として,債務者において,民法の規定するところにより,不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。けだし,そのように解しなければ,利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を順次弁済した債務者と,かかる利息・損害金を元本とともに弁済した債務者との間にいわれのない不均衡を生じ,利息制限法一条および四条の各二項の規定の解釈について,その統一を欠くにいたるからである。
 ところで,本件において,原審の確定するところによれば,上告人は,被上告人らの先代から三〇万円を利息および弁済期後の遅延損害金とも月五分の約で借り受け,右貸付日から弁済日までの一四か月二二日間の月五分の割合による利息・損害金を含め合計五五五,〇〇〇円を任意に被上告人ら先代に支払つたというのであるから,他に特段の事情のないかぎり,元本三〇万円およびこれに対する右期間に相当する利息制限法所定の利率による利息・損害金をこえる部分について,上告人は被上告人らに対し,不当利得の返還を請求しうるものというべきである。
 そうであれば,これと異なる見解のもとに,右制限超過部分について,上告人の本訴請求を排斥した原判決は,右法令の解釈適用を誤つたものというべきであり,この誤りは原判決の結論に影響すること明らかであるから,論旨はこの点において理由があり,原判決は,右部分にかぎり破棄を免れない。そして,本件は,右部分について,さらに審理する必要があるから,これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて,民訴法四〇七条を適用して,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官関根小郷,裁判官田中二郎,同下村三郎,同松本正雄,同飯村義美

 過払金発生の場合(過払金充当合意ある基本契約による)と民法704条前段の利息の発生時期(最判平成21年9月4日裁判集民事231号477頁)

いわゆる過払金充当合意を含む基本契約に基づく金銭消費貸借の借主が利息制限法所定の制限を超える利息の支払を継続したことにより過払金が発生した場合における,民法704条前段所定の利息の発生時期
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人前田陽司,同黒澤幸恵,同菊川秀明の上告受理申立て理由について
 1 金銭消費貸借の借主が利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生した場合において,貸主が悪意の受益者であるときは,貸主は,民法704条前段の規定に基づき,過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならない(大審院昭和2年(オ)第195号同年12月26日判決・法律新聞2806号15頁参照)。このことは,金銭消費貸借が,貸主と借主との間で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される旨の基本契約に基づくものであって,当該基本契約が過払金が発生した当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった場合でも,異なるところはないと解するのが相当である。
 2 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認できる。論旨は採用できない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(最高裁裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 竹内行夫)

民法704条後段の規定の趣旨(最判平成21年11月9日民集63巻9号1987頁)

民法704条後段の規定の趣旨
       主   文
 1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 2(1) 第1審判決中民法704条後段に基づく損害賠償請求に係る上告人敗訴部分を取り消す。
  (2) 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
 3 民法704条後段に基づく損害賠償請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却する。
 4 訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人前田陽司,同長倉香織の上告受理申立て理由について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である甲株式会社及び同社を吸収合併した上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を元金に充当すると,過払金が発生しており,かつ,それにもかかわらず,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為により被上告人が精神的苦痛を被ったと主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計1068万4265円の返還等を求めるとともに,民法704条後段に基づき,過払金の返還請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償108万円とこれに対する遅延損害金の,同法709条に基づき,慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償105万円とこれに対する遅延損害金の各支払を求める事案である。
 なお,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める部分は,原審においてその訴えが取り下げられ,また,民法709条に基づき損害賠償の支払を求める部分については,同請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不服申立てがなく,当審における審理判断の対象とはなっていない。
 2 原審は,次のとおり判断して,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。
 民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること,善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されていることなどに照らすと,同条後段の規定は,悪意の受益者の不法行為責任を定めたものではなく,不当利得制度を支える公平の原理から,悪意の受益者に対し,その責任を加重し,特別の責任を定めたものと解するのが相当である。従って,悪意の受益者は,その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合であっても,民法704条後段に基づき,損害賠償責任を負う。
 3 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日判決・民集28巻6号1243頁参照),不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)のとは,その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。
 従って,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。
 4 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為が不法行為には当たらないことについては,原審が既に判断を示しており,その判断は正当として是認できるから,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求は理由がないことが明らかである。よって,被上告人の民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償108万円及びこれに対する遅延損害金の請求を107万1247円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消し,同部分に関する被上告人の請求を棄却し,上記請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官今井 功,裁判官中川了滋,同古田佑紀,同竹内行夫

 第1基本契約による継続的な金銭の貸付けにかかる過払金を,その後締結の第2基本契約による継続的な金銭の貸付け債務に充当できるか(最判平成20年1月18日民集62巻1号28頁)

1 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否
2 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合
       主   文
 原判決中,主文第1項及び第2項を破棄する。
 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人太田三夫の上告受理申立て理由について
 1 本件は,上告人を貸主,被上告人を借主としていわゆるリボルビング方式の金銭消費貸借に係る二つの基本契約が締結され,各基本契約に基づいて取引が行われたところ,被上告人が,上記取引を一連のものとみて,これに係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金(不当利得)が生じていると主張して,上告人に対し過払金の返還を請求する事案である。最初に締結された基本契約に基づく取引について生じた過払金をその後に締結された基本契約に基づく取引に係る債務に充当することができるかどうかが争われている。
 2 原審が確定した事実関係の概要は次のとおりである。
 (1)上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)被上告人は,上告人との間で,平成2年9月3日,次の約定により,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返されるリボルビング式金銭消費貸借に係る基本契約(以下「基本契約1」という。)を締結した。
 ア 融資限度額 50万円(被上告人はこの範囲で自由に借増しができる。)
 イ 利息    年29.2%
 ウ 遅延損害金 年36.5%
 エ 返済日   毎月1日
 オ 返済方法  借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う。
 (3)被上告人は,平成2年9月3日から平成7年7月19日までの間,第1審判決別紙法定金利計算書1の番号1から74までの年月日欄記載の日に借入金額欄又は弁済額欄記載のとおり金銭の借入れと弁済を行った。これにより,基本契約1の約定利率による利息及び元金は,平成7年7月19日に完済された計算となる。なお,この間の弁済につき,制限超過部分を元本に充当されたものとして計算をした残元金は,上記法定金利計算書1の番号1から74までの残元金欄記載のとおりであって,平成7年7月19日の時点における過払金は42万9657円となる。
 (4)被上告人は,上告人との間で,平成10年6月8日,次の約定により,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返されるリボルビング式金銭消費貸借に係る基本契約(以下「基本契約2」という。)を締結した。
 ア 融資限度額 50万円(被上告人はこの範囲で自由に借増しができる。)
 イ 利息    年29.95%
 ウ 遅延損害金 年39.5%
 エ 返済日   毎月27日
 オ 返済方法  借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う。
 (5)被上告人は,平成10年6月8日から平成17年7月7日までの間,第1審判決別紙法定金利計算書2の番号1から146までの年月日欄記載の日に借入金額欄又は弁済額欄記載のとおり金銭の借入れと弁済を行った。
 (6)上告人は,基本契約2の契約書の作成に際し,被上告人から,借入申込書の提出を受け,健康保険証のコピーなどを徴求した上,被上告人の勤務先に電話して在籍の確認をした。
 上記契約書作成に際しての審査項目のうち,被上告人の融資希望額,勤務先,雇用形態,給与の支給形態,業種及び職種,住居の種類並びに家族の構成は,基本契約1を締結したときのものと同一であり,年収額及び他に利用中のローンの件数,金額についても大差はない状況であった。また,基本契約2を取り扱った上告人の支店は基本契約1を取り扱った支店と同一であった。
 3 原審は,次のとおり判示して,第1審判決中,被上告人の過払金返還請求のうちの一部を棄却した部分を取り消し,上告人に対し,第1審の認容額である28万7552円及びうち27万2973円に対する平成17年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員に加えて,43万8157円及びうち41万4829円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じた。
 (1)同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返される金銭消費貸借契約においては,借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常であると考えられるから,仮にいったん約定利息に基づく元利金が完済され,その後新たな借入れがされた場合でも,少なくともそれらの取引が一連のものであり,実質上一個のものとして観念されるときは,利息制限法違反により生じた過払金は新たな借入金元本の弁済に当然に充当されるものと解するのが相当である。
 (2)本件においては,基本契約1の完済時から基本契約2の締結時まで取引中断期間が約3年間と長期間に渡ったものの,この間に基本契約1を終了させる手続が執られた事実はないこと,基本契約2締結の際の審査手続も基本契約1が従前どおり継続されることの確認手続にすぎなかったとみることができることを考慮すると,基本契約1と基本契約2とで利率と遅延損害金の率が若干異なっており,毎月の弁済期日が異なっているとしても,基本契約1及び基本契約2は,借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であるから,基本契約1につき平成7年7月19日の弁済時に生じた過払金42万9657円は,その後平成10年6月8日に50万円の貸付けがされた時点で,何らの意思表示をすることなく同貸付金債務に当然に充当される(従って,基本契約1の取引により生じた過払金について,上告人の主張に係る消滅時効は成立しない。)。これにより,平成10年6月8日から平成17年7月7日までの借入れ及び弁済について,制限超過部分を元本に充当されたものとして計算をすると,法定金利計算書1の番号75から220までに記載のとおり,平成17年7月7日の時点において過払金元金68万7802円が,同年11月18日までに過払金利息3万7907円がそれぞれ発生している。
 これに対し,第1審判決は,平成7年7月19日に生じた過払金42万9657円は平成10年6月8日の貸付金債務に充当されないとする判断を前提として被上告人の請求を一部認容しているが,その判断は誤りであるから,第1審の認容額に加えて上記のとおりの金員の支払を命ずる。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
 (2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく取引について,約定利率に基づく計算上は元利金が完済される結果となった平成7年7月19日の時点において,各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金42万9657円が発生したが,その当時上告人と被上告人との間には他の借入金債務は存在せず,その後約3年を経過した平成10年6月8日になって改めて基本契約2が締結され,それ以降は基本契約2に基づく取引が行われたというのであるから,基本契約1に基づく取引と基本契約2に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合に当たるなど特段の事情のない限り,基本契約1に基づく取引により生じた過払金は,基本契約2に基づく取引に係る債務には充当されないというべきである。
 原審は,基本契約1と基本契約2は,単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であることを根拠として,基本契約1に基づく取引により生じた過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとする。しかし,本件においては,基本契約1に基づく最終の弁済から約3年間が経過した後に改めて基本契約2が締結されたこと,基本契約1と基本契約2は利息,遅延損害金の利率を異にすることなど前記の事実関係を前提とすれば,原審の認定した事情のみからは,上記特段の事情が存在すると解することはできない。
 そうすると,本件において,上記特段の事情の有無について判断することなく,上記過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,主文第1項及び第2項は破棄を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官今井 功,裁判官津野 修,同中川了滋,同古田佑紀

 信用保証会社の保証料・事務手数料と利息制限法3条所定のみなし利息(最判平成15年7月18日民集57巻7号895頁)

一 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法三条所定のみなし利息に当たるとされた事例
二 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を越える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
       主   文
 1 平成13年(受)第1032号上告人の上告を棄却する。
 2 原判決中,平成13年(受)第1033号上告人らの敗訴部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 第1項に関する上告費用は,平成13年(受)第1032号上告人の負担とする。
       理   由
第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 丙株式会社は,中小企業等への金員の貸付けを業とする平成13年(受)第1032号上告人・同第1033号被上告人(以下「1審被告」という。)との間で,平成5年6月11日付けの手形貸付取引約定及び同月14日付けの基本取引約定により,次の内容の継続的貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 3000万円
 イ 特約 丙株式会社振出しの手形が不渡りとなったときは,丙株式会社は,1審被告に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 (2) 平成13年(受)第1032号被上告人・同第1033号上告人甲(以下「1審原告甲」という。)は平成9年8月5日,同乙(以下「1審原告乙」という。)は平成6年6月21日,1審被告に対し,丙株式会社の1審被告に対する本件貸付契約に基づく債務について,それぞれ400万円の限度で連帯保証した。
 (3) 1審被告は,本件貸付契約に基づき,丙株式会社に対し,平成5年6月11日から平成10年3月24日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙1記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付け,返済を受けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 なお,同別紙に記載した「借入日」の「返済額」には,貸付額から天引きされた同別紙記載の1審被告に対する利息,調査料及び取立料と丁信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)との合計額が計上されている。
 (4) 1審被告の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
 (5) 平成10年3月末,丙株式会社振出しの手形が不渡りとなった。
 (6) 1審原告甲は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月9日及び同月17日に各200万円を支払った。
 (7) 1審原告乙は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月10日,同月14日,同月23日及び同月28日に各50万円,同年5月7日に200万円を支払った。
 (8) 丁信用保証株式会社は,1審被告の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,1審被告が100%出資して平成3年5月に設立した子会社であり,丁信用保証株式会社の利益は,最終的には1審被告に帰属するということができる。丁信用保証株式会社は,1審被告の貸付けに限って保証しており,1審被告から手形貸付けを受ける場合,丁信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。丁信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,丁信用保証株式会社の設立後,1審被告は貸付利率の引下げ等を行ったが,丁信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と1審被告の受ける利息等の割合との合計は丁信用保証株式会社を設立する以前に1審被告が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。丁信用保証株式会社は,1審被告の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を1審被告に委託しており,信用調査業務についても1審被告に任せ,保証の可否の決定業務をも事実上1審被告に委託していた。また,信用保証会社が貸付金取引の借主の債務を保証する主たる目的は,借主が返済を怠った場合,信用保証会社が貸主に対して代位弁済を行い,借主に対して求償金の回収業務を行うことにあるにもかかわらず,丁信用保証株式会社については,債権回収業務も1審被告が相当程度代行していた。丁信用保証株式会社は,その組織自体がこのような各業務を自ら行う体制にはなっていなかった。
 2 本件は,1審原告らが,1審被告に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払われた部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 第2 平成13年(受)第1032号上告代理人滝田裕,同川戸淳一郎の上告受理申立て理由について
 1審被告の受ける利息等と丁信用保証株式会社の受ける保証料等の合計額が法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,前記第1の1(8)記載の丁信用保証株式会社の設立経緯,保証料等の割合,業務の内容及び実態並びにその組織の体制等によれば,1審被告は,法を潜脱し,100%子会社である丁信用保証株式会社に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をして丁信用保証株式会社に対する保証委託をさせていたということができるから,丁信用保証株式会社の受ける保証料等は,法3条所定のみなし利息に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認できる。論旨は採用できない。
 第3 平成13年(受)第1033号上告代理人松山満芳の上告受理申立て理由について
 1 原審は,1審被告と丙株式会社は,基本取引約定及び手形貸付取引約定を取り交わし,これに基づく複数の貸付金取引を並行して行っていたのであるから,丙株式会社がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を支払い,この制限超過部分を元本に充当した結果生じた過払金については,1審被告の貸主としての期限の利益を保護した上で他の借入金債務に充当するとすることが,1審被告と丙株式会社の意思であると合理的に推認され,1審被告は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができると判断した。
 2 しかし,原審の上記判断のうち,過払金が他の借入金債務に充当されるとの判断は是認できるが,この場合に1審被告が充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができるとの判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
 従って,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
 そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中1審原告らの敗訴部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,1審被告の上告は,これを棄却することとし,1審原告らの上告に基づいて,原判決中1審原告らの敗訴部分を破棄し,同部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官滝井繁男,裁判官福田 博,同北川弘治,同亀山継夫,同梶谷 玄

 信用保証会社の保証料・事務手数料と利息制限法3条所定のみなし利息(最判平成15年9月11日裁判集民事210号617頁)

一 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法三条所定のみなし利息に当たるとされた事例
二 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
       理   由
第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
(1)丁の名称で塗装業を営む上告人甲は,平成元年11月2日,商工ローンの名称により保証付手形貸付け等を業とする被上告人との間で,次の内容の継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 1000万円
 イ 返済方法 手形面記載の満期日に,同記載の支払場所において,手形金額(元金)を手形決済の方法により一括返済する。
 ウ 特約 上告人甲振出しの手形が不渡りになったときは,上告人甲は被上告人に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
(2)上告人乙は,平成6年10月21日,被上告人に対し,本件貸付契約に基づき上告人甲が被上告人に対して負担する債務について,(ア)極度額を600万円,(イ)保証対象を上告人甲が被上告人に対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務,(ウ)保証期間を前同日から平成11年10月21日までとし,連帯保証した。
(3)上告人丙は,平成6年6月9日,被上告人に対し,本件貸付契約に基づき上告人甲が被上告人に対して負担する債務について,(ア)極度額を400万円,(イ)保証対象を上告人甲が被上告人に対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務,(ウ)保証期間を前同日から平成11年6月9日までとし,連帯保証した。
(4)被上告人は,本件貸付契約に基づき,上告人甲に対し,平成元年11月2日から平成7年12月13日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙一の「貸付日」欄記載の日に「支払期日」欄記載の日を弁済期として「手形額面」欄記載の金額を,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して貸し付けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 ただし,上告人甲に交付された金員は,各貸付額から,①弁済期までの約定利息金,②被上告人が徴収する調査料及び取立料,③平成3年7月以降の貸付けについては戊信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(平成5年7月14日以降の貸付けについては,事務手数料として振替手数料618円が加算されている。以下,保証料及び事務手数料を合わせて「保証料等」という。)を控除した残額である。
(5)被上告人の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
(6)本件貸付契約に基づき上告人甲が振り出した手形のうち,平成7年8月4日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済され,各貸付金はいずれも弁済されており,同月11日から同年12月13日までの間の貸付けに係る手形6通(①振出日平成7年8月11日,金額140万円,②振出日前同日,金額115万円,③振出日同年9月8日,金額100万円,④振出日同年10月12日,金額115万円,⑤振出日同年11月2日,金額190万円,⑥振出日同年12月13日,金額125万円)は,不渡り又は決済未了となっている。
(7)上告人丙は,被上告人に対し,上記(6)①ないし⑥の手形金債務の保証債務の履行として,平成8年2月20日,同月22日及び同月23日,各100万円(合計300万円)を支払った。
(8)被上告人は,上告人乙に対し,平成8年5月15日,上記(6)④の手形金債務の保証債務履行請求権を被保全債権として,上告人乙所有の動産につき,仮差押命令の申立てをし,同月22日,仮差押命令を得て,その後執行申立てをし,同執行がされ,これが現在まで継続している。
(9)戊信用保証株式会社は,被上告人の貸付金取引の借主に対する保証を行うために,被上告人が100%出資して平成3年5月27日に設立した連結子会社である。戊信用保証株式会社は,被上告人の貸付けに限って保証しており,被上告人の手形貸付けについては,戊信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。戊信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,戊信用保証株式会社の設立後,被上告人は貸付利率の引下げ等を行ったが,戊信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と被上告人の受ける利息等の割合との合計は戊信用保証株式会社を設立する以前に被上告人が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。戊信用保証株式会社は,被上告人の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務をすべて被上告人に委託しており,信用保証委託契約の締結に際しても独自の審査を行っていなかった。借主に債務不履行が発生したときも,被上告人が債権回収のための訴えの提起などを行っていた。戊信用保証株式会社の取締役には被上告人の代表取締役及び取締役数名が就任しており,その本店は被上告人の旧支店の建物内に置かれ,従業員の多くも被上告人の元従業員であった。
 2 本件は,被上告人に対し,(1)上告人甲が,上記の保証料等も法3条所定のみなし利息に当たり,これも含めて本件取引につき支払った利息等のうち法所定の制限を超える部分を元本に充当すると,過払金が生じているなどとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還,(2)上告人丙が,被上告人に対して支払った合計300万円が被上告人の不当利得であるとして,不当利得返還請求権に基づきその返還,(3)上告人乙が,上記過払金の充当の結果上記1(6)の手形金債務が既に消滅しており,被上告人の上告人乙に対する仮差押命令の取得及びその執行は不法行為を構成するとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料の支払をそれぞれ求める事案である。
 第2 上告代理人松田安正外238名の上告受理申立て理由第三(上告受理申立理由第一点)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 戊信用保証株式会社と被上告人との関係を考慮しても,戊信用保証株式会社の法人格が形がい的又は濫用的なものであるとはすぐにはいえないし,戊信用保証株式会社の受ける保証料等は,被上告人の受ける利息等とは別個のものであり,これを法3条所定のみなし利息とみることはできないというほかない。
 2 しかし,原審の上記判断は是認することができず,本件の事実関係の下においては,戊信用保証株式会社の受ける保証料等は,本件取引に関し被上告人の受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日判決・裁判所時報1343号6頁参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第3 上告代理人松田安正外238名の上告受理申立て理由第四(上告受理申立理由第二点)の四2について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 本件取引における各貸付けに対する弁済によって生じた各過払金は,各貸付けごとに生じているものと認められ,他の借入金債務には充当されない。
 2 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(前掲最高裁平成15年7月18日判決参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官泉 徳治,裁判官深澤武久,同横尾和子,同甲斐中辰夫,同島田仁郎

 信用保証会社の保証料・事務手数料と利息制限法3条所定のみなし利息(最判平成15年9月16日裁判集民事210号729頁)

一 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法三条所定のみなし利息に当たるとされた事例
二 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
       主   文
 原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
       理   由
第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
(1)食料品の卸売を業とする上告人は,平成2年1月23日,金銭の貸付けを業とする被上告人との間で,次の内容の継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 300万円。なお,上告人と被上告人は,元本極度額を平成4年2月7日600万円に,平成5年7月19日1000万円に,それぞれ増額した。
 イ 支払方法等 手形面記載の満期日に,手形面記載の支払場所で,手形決済の方法による。
 ウ 特約 上告人振出しの手形が不渡りとなったときは,上告人は,被上告人に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 エ 損害金 期限の利益の喪失の日の翌日から年率37%の割合とする。
(2)被上告人は,本件貸付契約に基づき,上告人に対し,平成2年1月23日から平成10年12月4日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙被告主張計算書記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 ただし,被上告人は,このうち,平成3年7月16日以降の貸付けについては,被上告人に対する利息,調査料及び取立料のほか,甲信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)を天引きしていたが,平成10年7月9日以降の貸付けについては,これらの金員の天引きをせずに,後払いとすることとした。
(3)被上告人の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
(4)甲信用保証株式会社は,被上告人の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,被上告人が100%出資して設立した子会社であり,被上告人と役員の一部が共通している。甲信用保証株式会社は,被上告人の貸付けに限って保証しており,被上告人の手形貸付けについては,甲信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。甲信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,甲信用保証株式会社の設立後,被上告人は貸付利率の引下げ等を行ったが,甲信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と被上告人の受ける利息等の割合との合計は甲信用保証株式会社を設立する以前に被上告人が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。甲信用保証株式会社は,被上告人の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を被上告人に委託しており,信用調査業務についても被上告人が主体となって行い,債権回収業務も被上告人が相当程度代行していた。
(5)本件貸付契約に基づき上告人が振り出した手形のうち,平成10年4月15日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済され,各貸付金はいずれも弁済されたが,同年6月8日から同年12月4日までの間の貸付けに係る手形7通は,不渡り又は決済未了となっている。
 2 本件本訴請求事件は,上告人が被上告人に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払った部分を元本に充当すると過払金が生じているなどとして,過払金の不当利得返還を請求する事案であり,本件反訴請求事件は,被上告人が上告人に対し,本件取引に基づく貸金残額の返還を請求する事案である。
 第2 上告代理人三枝久の上告受理申立て理由について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 被上告人と甲信用保証株式会社とは緊密な関係があることは認められるが,被上告人が借主から徴収した保証料等を毎月2回甲信用保証株式会社に対して支払っていること,甲信用保証株式会社が被上告人に対して代位弁済する場合には,実際に甲信用保証株式会社から被上告人に対して小切手による支払がされていることに照らせば,収支の点で両者が混同している状態にあるとはいえない。甲信用保証株式会社が被上告人の100%子会社であり,役員の一部が共通しているとはいえ,甲信用保証株式会社の法人格が完全に形がい化し,実体的な評価として被上告人と一体であるとまでいうことはできない。そうすると,甲信用保証株式会社の受ける保証料等は法3条所定のみなし利息に当たるということはできない。
 また,本件取引上の各貸付けに対する弁済によって生じた過払金を他の借入金債務に充当する場合,上告人が期限までの利息を支払う必要があること,各過払金を他の借入金債務に当然充当する旨の合意がされたことをうかがわせる事情は見いだせないことに照らせば,各貸付けに対する弁済によって生じた過払金は,他の借入金債務には充当されないというべきである。
 2 しかし,原審の上記判断はいずれも是認できない。その理由は,次のとおりである。
 本件の事実関係の下においては,甲信用保証株式会社の受ける保証料等は,本件取引に関し被上告人の受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日判決・裁判所時報1343号6頁参照)。
 また,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(前掲最高裁平成15年7月18日判決参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第3 結論
 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官濱田邦夫,裁判官金谷利廣,同上田豊三,同藤田宙靖

 カードの利用による継続的金銭貸付け等基本契約と,これに関する過払金は弁済当時他の借入金債務がなければその後に発生する新たな借入金債務への充当合意があると解された事例(最判平成19年6月7日民集61巻4号1537頁)

カードの利用による継続的な金銭の貸付けを予定した基本契約が同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には弁済当時他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例
       主   文
 1 原判決中不当利得返還請求に係る部分につき本件上告を棄却する。
 2 その余の本件上告を却下する。
 3 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人水中誠三ほかの上告受理申立て理由第1,第3及び第4について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)上告人は,貸金業の規制等に関する法律3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者である。
 (2)上告人は,昭和63年6月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とするクレジットカード会員契約を締結し,被上告人に対し,「オリコカード」という名称のクレジットカードを交付した。上記契約には金銭消費貸借に関する契約の条項(以下,この条項を「本件基本契約1」という。)が含まれていたところ,後記(4)記載の期間における本件基本契約1の内容は,次のとおりである。
 ア 借入方法
 会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借入れをすることができる。
 イ 返済方法
 指定された回数に応じて毎月同額の元本及び利息を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式),毎月末日の借入残高に応じて定められる一定額を返済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)又は1回払の方法の中から会員が選択する。
 ウ 借入利率
 元利均等分割返済方式による借入れにつき原則として年26.4%,それ以外の返済方式による借入れにつき原則として年27.6%とする。
 エ 利息の計算方法
 前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までの実質年利(日割計算)を乗じて算出する。
 オ 返済金の支払方法
 毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
 (3)上告人は,平成3年12月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とするローンカード会員契約(以下「本件基本契約2」といい,本件基本契約1と併せて「本件各基本契約」という。)を締結し,被上告人に対し,「アメニティ」という名称のローンカードを交付した。後記(4)記載の期間における上記契約の内容は,次のとおりである。
 ア 借入方法
 会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借入れをすることができる。
 イ 返済方法
 翌月に一括して返済する方法又は毎月の借入残高に応じて定められる一定額を返済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)のいずれかから会員が選択する。
 ウ 借入利率 年22.6%
 エ 利息の計算方法
 前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までを1か月として計算する。
 オ 返済金の支払方法
 毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
 (4)上告人は,被上告人に対し,平成3年8月2日から平成16年1月31日までの間,本件基本契約1に基づき,原判決別紙計算表2②の「年月日」欄記載の各年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し,同計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った。
 上告人は,被上告人に対し,平成3年12月24日から平成16年1月31日までの間,本件基本契約2に基づき,原判決別紙計算表2①の「年月日」欄記載の各年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し,同計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下,本件各基本契約に基づくそれぞれ一連の取引を「本件各取引」という。)。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件各取引のそれぞれにつき,本件各基本契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると,過払金が発生し,かつ,この過払金を同一の基本契約において弁済当時存在する債務又はその後に発生する新たな貸付けに係る債務に充当してもなお過払金が残存しているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件各取引において発生した過払金の支払等を求める事案である。
 3 原審は,前記事実関係の下において,本件各取引はそれぞれが本件各基本契約に基づいて反復して行われた融資取引であること,本件各基本契約においては借入金の利息や返済方法等の基本的な事項が定められていること,本件各基本契約締結の際に重要な事項に関する審査は終了しており,各貸付けの際には事故発生の有無等の消極的な審査がされるにすぎないこと,貸付けと返済は利用限度額の範囲内で頻繁に繰り返されることが予定されていることなどの本件各基本契約と各貸付けの性質・関係に照らすと,本件各取引はそれぞれが全体として一個の取引であり,各取引内において,被上告人が支払った制限超過部分が元本に充当された結果過払金が発生し,その後に新たな貸付けに係る債務が発生した場合であっても,当該過払金は上記貸付けに係る債務に当然に充当されるものと解すべきであると判断して,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を一部認容した。
 4 所論は,過払金の充当に関する原審の上記判断の法令違反をいうものである。
 よって検討するに,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日判決・民集57巻7号895頁,最高裁平成12年(受)第1000号同15年9月11日判決・裁判集民事210号617頁参照)。これに対して,弁済によって過払金が発生しても,その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には,上記過払金は,その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし,この場合においても,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するときは,その合意に従った充当がされるものというべきである。
 これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間で締結された本件各基本契約において,被上告人は借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員を借り入れることができ,借入金の返済の方式は毎月一定の支払日に借主である被上告人の指定口座からの口座振替の方法によることとされ,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算することとされていたというのである。これによれば,本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。原審の前記判断は,これと同旨をいうものとして,是認できる。論旨は採用できない。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく慰謝料請求の敗訴部分につき上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
  最高裁裁判長裁判官甲斐中辰夫,裁判官横尾和子,同泉 徳治,同才口千晴,同涌井紀夫

 基本契約のない場合といわゆる充当合意(過払金をその後の新借入金債務に充当する旨の合意)(最判平成19年7月19日民集61巻5号2175頁)

同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずに切替え及び貸増しとしてされた多数回の貸付けに係る金銭消費貸借契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第1について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,貸金業の規制等に関する法律3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者である。
(2)上告人は,昭和61年ころから平成16年4月5日までの間,甲に対して金銭を貸し付け,甲から返済を受けるということを繰り返していた。両者の間の平成5年10月25日以降の貸付け(以下「本件各貸付け」という。)及び返済の状況は,第1審判決別紙3のとおりである。本件各貸付けにおいては,元本及び利息制限法1条1項所定の制限利率を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する旨の約定が付されていた。
(3)本件各貸付けは,平成15年7月17日の貸付けを除き,いずれも借換えであり,従前の貸付けの約定の返済期間の途中において,従前の貸付金残額と追加貸付金額の合計額を新たな貸付金額とする旨合意した上で,上告人が甲に対し新たな貸付金額から従前の貸付金残額を控除した額の金員(追加貸付金)を交付し,それによって従前の貸付金残金がすべて返済されたものとして取り扱うというものであった。上記借換えの際には,書類上は,別個の貸付けとして借入申込書,契約書,領収書等が作成されているが,いずれの際も,甲が上告人の店頭に出向き,即時書面審査の上,上記のとおり追加貸付金が交付されていた。上告人は,甲に対し,約定どおりの分割返済が6回程度行われると借換えを勧めていた。
(4)甲は,平成15年4月2日に,いったん,それ以前の借入れに係る債務を完済するための返済をしたが,その約3か月後である同年7月17日には,従前の貸付けと同様の方法と貸付条件で貸付けがされ,平成16年1月6日,従前の貸付けと同様の借換えがされ,その後同年4月5日まで元本及び利息の分割返済が重ねられた。
(5)甲は平成16年7月28日に破産宣告を受け,被上告人が破産管財人に選任された。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,甲が破産宣告前に上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める事案である。
 原審は,本件各貸付けは1個の連続した貸付取引であり,その元利充当計算は各取引を一連のものとして通算してすべきであって,甲が支払った制限超過部分が元本に充当された結果過払金が発生し,その後に新たな貸付けに係る債務が発生した場合であっても,当該過払金は新たな貸付けに係る債務に充当されるものと解すべきであると判断して,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を一部認容した。
 所論は,過払金の充当に関する原審の上記判断の法令違反をいうものである。
 3 前記事実関係によれば,本件各貸付けは,平成15年7月17日の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして,長年にわたり同様の方法で反復継続して行われていたものであり,同日の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであるというのであるから,本件各貸付けを1個の連続した貸付取引であるとした原審の認定判断は相当である。
 そして,本件各貸付けのような1個の連続した貸付取引においては,当事者は,一つの貸付けを行う際に,切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であることに照らしても,制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意しているものと解するのが合理的である。
 上記のように,本件各貸付けが1個の連続した貸付取引である以上,本件各貸付けに係る上告人と甲との間の金銭消費貸借契約も,本件各貸付けに基づく借入金債務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
 原審の前記判断は,これと同旨をいうものとして,是認できる。論旨は採用できない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官横尾和子,裁判官甲斐中辰夫,同泉 徳治,同才口千晴

 貸金業者の特約に基づく借主の期限の利益の主張と信義則違反の有無(最判平成21年9月11日裁判集民事231号531頁)

貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとされた事例
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人矢野仁士の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,被上告人が,上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息を元本に充当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める事案である。上告人において,期限の利益喪失特約に基づき被上告人が期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反するか等が争われている。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,平成11年9月28日,被上告人に対し,400万円を次の約定で貸し付けた(以下,この貸付けに係る契約を「本件契約」という。)。
 ア 弁済方法  平成11年10月から平成16年9月まで毎月15日限り,元本6万6000円ずつ(ただし,平成16年9月のみ10万6000円)を支払日の前日までの利息と共に支払う(以下,この毎月返済することが予定された元本を「賦払金」といい,残元本に対する支払日の前日までの利息を「経過利息」という。)。
 イ 利息    年29.8%(年365日の日割計算)
 ウ 遅延損害金 年36.5%(年365日の日割計算)。ただし,期限の利益喪失後,上告人は毎月15日までに支払われた遅延損害金については一部を免除し,その利率を年29.8%とするが,この取扱いは,期限を猶予するものではない。
 エ 特約    元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
 (3)ア 被上告人は,上告人に対し,原判決別紙1「元利金計算書」の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払金額」欄記載の各金額の支払をした。
 イ 被上告人は,第1回目から第4回目までの各支払期日(上記(2)アで定められた支払期日をいう。以下同じ。)に,賦払金及び経過利息の合計額(上記(2)ア及びイの約定により各支払期日に支払うべきものとされていた金額。以下同じ。)又はこれを超える額を支払った。被上告人は,第5回目の支払期日である平成12年2月15日には支払をしなかったが,その前に,上告人の担当者から15万円くらい支払っておけばよいと言われていたため,同月16日に15万円を支払った。上告人は,被上告人から受領した15万円のうち9万1450円を利息に充当し,5万8550円を元本に充当した旨記載された領収書兼利用明細書を被上告人に送付した。
 ウ 被上告人は,第6回目から第8回目までの各支払期日に賦払金及び経過利息の合計額又はこれを超える額の金員を支払ったが,第9回目の支払期日である平成12年6月15日の支払が困難なので,上告人の担当者に電話をかけ,支払が翌日になる旨告げたところ,同担当者からは,1日分の金利を余計に支払うことを求められ,翌日支払う場合の支払金額として賦払金と年29.8%の割合で計算した金利との合計額を告げられた。そこで,被上告人は,同担当者が告げた金額よりも多めに支払っておけば問題はないと考え,同月16日,上告人に対し15万8000円を支払った。
 エ 上告人は,第6回目の支払期日以降,被上告人の支払が支払期日より遅れた場合,支払われた金員を,残元本全額に対する前回の支払日から支払期日までの年29.8%の割合で計算した遅延損害金及び残元本全額に対する支払期日の翌日から支払日の前日までの年36.5%の割合で計算した遅延損害金に充当し,残余があるときは,残元本の一部に充当した。
 被上告人は,その後,支払期日に遅れて支払うことがしばしばあったが,上告人は,被上告人に対して残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることはなかった。
 オ 被上告人は,上告人の上記のような対応から,当初の約定の支払期日より支払が多少遅れることがあっても,遅れた分の遅延損害金を支払えば期限の利益を失うことはないと信じ,期限の利益を喪失したために残元本全額を一括弁済すべき義務が発生しているとは思わなかった。
 上告人は,第6回目の支払期日以降,弁済を受けるたびに,その弁済金を残元本全額に対する遅延損害金と残元本の一部に充当したように記載した領収書兼利用明細書(以下「本件領収書兼利用明細書」という。)を被上告人に送付していた。しかし,被上告人は,上告人が上記のような対応をしたために,期限の利益を喪失していないものと誤信して支払を続け,上告人は,被上告人が上記のように誤信していることを知りながら,被上告人に対し,残元本全額について弁済期が到来していることについて注意を喚起することはなく,被上告人の上記誤信をそのまま放置した。そして,被上告人は,平成18年2月17日まで,賦払金と年29.8%の割合による金員との合計額につき,賦払金と経過利息の支払と誤信して,その支払を続け,途中で,当初の約定の支払期日より支払を遅れた場合には,これに付加して,遅れた日数分のみ年36.5%の割合で計算した遅延損害金を支払った。
 3(1) 前記事実関係によれば,本件契約には,遅延損害金の利率を年36.5%とした上で,期限の利益喪失後,毎月15日までに支払われた遅延損害金については,その利率を利息の利率と同じ年29.8%とするという約定があるというのであり,このような約定の下では,借主が期限の利益を喪失しても,支払期日までに支払をする限りにおいては期限の利益喪失前と支払金額に差異がなく,支払期日を経過して年36.5%の割合による遅延損害金を付加して支払うことがあっても,その後の支払において支払期日までに支払えば期限の利益喪失前と同じ支払金額に戻るのであるから,借主としては,上告人の対応によっては,期限の利益を喪失したことを認識しないまま支払を継続する可能性が多分にあるというべきである。
 (2) そして,前記事実関係によれば,上告人は,被上告人が第5回目の支払期日における支払を遅滞したことによって期限の利益を喪失した後も,約6年間にわたり,残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることなく,被上告人から弁済金を受領し続けてきたというだけでなく,① 被上告人は,第5回目の支払期日の前に上告人の担当者から15万円くらい支払っておけばよいと言われていたため,上記支払期日の翌日に15万円を支払ったものであり,しかも,② 被上告人が上記のとおり15万円を支払ったのに対し,上告人から送付された領収書兼利用明細書には,この15万円を利息及び元本の一部に充当したことのみが記載されていて,被上告人が上記支払期日における支払を遅滞したことによって発生したはずの1日分の遅延損害金に充当した旨の記載はなく,③ 被上告人が,第9回目の支払期日に,上告人の担当者に対して支払が翌日になる旨告げた際,同担当者からは,1日分の金利を余計に支払うことを求められ,翌日支払う場合の支払金額として賦払金と年29.8%の割合で計算した金利との合計額を告げられたというのである。
 (3) 上記(2)のような上告人の対応は,第5回目の支払期日の前の上告人の担当者の言動,同支払期日の翌日の支払に係る領収書兼利用明細書の記載,第9回目の支払期日における上告人の担当者の対応をも考慮すれば,たとえ第6回目の支払期日以降の弁済について被上告人が上告人から本件領収書兼利用明細書の送付を受けていたとしても,被上告人に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせかねないものであって,被上告人において,約定の支払期日より支払が遅れることがあっても期限の利益を喪失することはないと誤信したことには無理からぬものがあるというべきである。
 (4) そして,上告人は,被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら,この誤信を解くことなく,第5回目の支払期日の翌日以降約6年にわたり,被上告人が経過利息と誤信して支払った利息制限法所定の利息の制限利率を超える年29.8%の割合による金員等を受領し続けたにもかかわらず,被上告人から過払金の返還を求められるや,被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており,その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから,利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって,このような上告人の期限の利益喪失の主張は,誤信を招くような上告人の対応のために,期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり,信義則に反し許されないものというべきである。
 これと同旨の原審の判断は是認できる。論旨は採用できない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官中川了滋,裁判官今井 功,同古田佑紀,同竹内行夫

 貸金業者の特約に基づく借主の期限の利益の主張と信義則違反の有無(最判平成21年9月11日裁判集民事231号495頁)

貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとした原審の判断に違法があるとされた事例
       主   文
 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人大平昇の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件本訴は,貸金業者である上告人が,借主である被上告人P1及び連帯保証人であるその余の被上告人らに対して貸金の返済等を求めるものであり,本件反訴は,被上告人P1が,上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息(以下「制限超過利息」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める事案である。上告人において,期限の利益喪失特約に基づき被上告人P1が期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反するか等が争われている。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,平成15年3月6日,被上告人P1に対し,400万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け①」という。)。
 ア 利息    年29.0%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 弁済方法  平成15年4月から平成20年3月まで毎月1日限り,元金6万6000円ずつ(ただし,平成20年3月のみ10万6000円)を経過利息と共に支払う。
 被上告人P2は,平成15年3月6日,上告人に対し,本件貸付け①に係る被上告人P1の債務について連帯保証した。
 (3) 上告人は,平成16年4月5日,被上告人P1に対し,350万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け②」という。)。
 ア 利息    年29.0%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 弁済方法  平成16年5月から平成21年4月まで毎月1日限り,元金5万8000円ずつ(ただし,平成21年4月のみ7万8000円)を経過利息と共に支払う。
 被上告人P3は,平成16年4月5日,上告人に対し,本件貸付け②に係る被上告人P1の債務について連帯保証した。
 (4) 上告人は,平成17年6月27日,被上告人P1に対し,300万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け③」といい,本件貸付け①,②と併せて「本件各貸付け」という。)。
 ア 利息    年29.2%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 弁済方法  平成17年8月から平成22年7月まで毎月1日限り,元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 被上告人P4は,平成17年6月27日,上告人に対し,本件貸付け③に係る被上告人P1の債務について連帯保証した。
 (5) 本件各貸付けにおいては,元利金の支払を怠ったときは通知催告なくして当然に期限の利益を失い,残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う旨の約定(以下「本件特約」という。)が付されていた。
 (6) 本件各貸付けに対する被上告人P1の弁済内容は,本件貸付け①に係る債務については原判決別表1に,本件貸付け②に係る債務については原判決別表2に,本件貸付け③に係る債務については原判決別表3にそれぞれ記載されているとおりであり,同被上告人は,本件貸付け①,②については平成16年9月1日の支払期日に,本件貸付け③については平成17年8月1日の支払期日に,全く支払をしておらず,いずれの貸付けについても,上記各支払期日の後,当初の約定で定められた支払期日までに弁済したことはほとんどなく,支払期日よりも1か月以上遅滞したこともあった。
 (7) 上告人は,被上告人P1から本件各貸付けに係る弁済金を受領する都度,領収書兼利用明細書を作成して同被上告人に交付していたところ,いずれの貸付けについても,上記(6)記載の各支払期日より後にした各弁済(以下「本件各弁済」と総称する。)に係る領収書兼利用明細書には,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当した旨記載されており,利息に充当した旨の記載はない。
 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり,上告人が本件各貸付けについて本件特約による期限の利益の喪失を主張することは信義則に反し許されないと判断した。そして,本件各貸付けのいずれについても被上告人P1に期限の利益の喪失はないものとして本件各弁済につき制限超過利息を元本に充当した結果,本件各貸付けについては,原判決別表1~3のとおり,いずれも元本が完済され,過払金が発生しているとして,上告人の本訴請求をいずれも棄却し,同被上告人の反訴請求を一部認容した。
 (1) 被上告人P1は,本件貸付け①,②については,平成16年9月1日の支払期日に支払うべき元利金の支払をしなかったことにより,本件貸付け③については,平成17年8月1日の支払期日に支払うべき元利金の支払をしなかったことにより,本件特約に基づき期限の利益を喪失した。
 (2) しかし,被上告人P1は,本件貸付け①,②については,その期限の利益喪失後も,基本的には毎月規則的に弁済を続け,上告人もこれを受領している上,平成17年6月には新たに本件貸付け③を行い,本件貸付け③についても同被上告人はその期限の利益喪失後も弁済を継続しており,上告人が期限の利益喪失後直ちに同被上告人に対して元利金の一括弁済を求めたこともうかがわれないから,上告人は,同被上告人が弁済を遅滞しても分割弁済の継続を容認していたものというべきである。そして,本件各貸付けにおいては約定の利息の利率と遅延損害金の利率とが同率ないしこれに近似する利率と定められていることを併せ考慮すると,領収書兼利用明細書上の遅延損害金に充当する旨の表示は,利息制限法による利息の利率の制限を潜脱し,遅延損害金として高利を獲得することを目的として行われたものであるということができる。そうすると,被上告人P1に生じた弁済の遅滞を問題とすることなく,その後も弁済の受領を反復し,新規の貸付けまでした上告人において,さかのぼって期限の利益が喪失したと主張することは,従前の態度に相反する行動であり,利息制限法を潜脱する意図のものであって,信義則に反し許されない。
 4 原審の上記3(1)の判断は是認できるが,同(2)の判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 原審は,上告人において,被上告人P1が本件特約により本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後も元利金の一括弁済を求めず,同被上告人からの一部弁済を受領し続けたこと(以下「本件事情①」という。),及び本件各貸付けにおいては,約定の利息の利率と約定の遅延損害金の利率とが同一ないし近似していること(以下「本件事情②」という。)から,上告人が領収書兼利用明細書に弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当する旨記載したのは,利息制限法による利息の利率の制限を潜脱し,遅延損害金として高利を獲得することを目的としたものであると判断している。
 しかし,金銭の借主が期限の利益を喪失した場合,貸主において,借主に対して元利金の一括弁済を求めるか,それとも元利金及び遅延損害金の一部弁済を受領し続けるかは,基本的に貸主が自由に決められることであるから,本件事情①が存在するからといって,それだけで上告人が被上告人P1に対して期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為をしたということはできない。また,本件事情②は,上告人の対応次第では,被上告人P1に対し,期限の利益喪失後の弁済金が,遅延損害金ではなく利息に充当されたのではないかとの誤解を生じさせる可能性があるものであることは否定できないが,上告人において,同被上告人が本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後は,領収書兼利用明細書に弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当する旨記載して同被上告人に交付するのは当然のことであるから,上記記載をしたこと自体については,上告人に責められる理由はない。むしろ,これによって上告人は,被上告人P1に対して期限の利益喪失の効果を主張するものであることを明らかにしてきたというべきである。従って,本件事情①,②だけから上告人が領収書兼利用明細書に上記記載をしたことに利息制限法を潜脱する目的があると即断することはできないものというべきである。
 原審は,上告人において,被上告人P1が本件貸付け①,②について期限の利益を喪失した後に本件貸付け③を行ったこと(以下「本件事情③」という。)も考慮し,上告人の期限の利益喪失の主張は従前の態度に相反する行動であり,利息制限法を潜脱する意図のものであって,信義則に反するとの判断をしているが,本件事情③も,上告人が自由に決められることである点では本件事情①と似た事情であり,それだけで上告人が本件貸付け①,②について期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為をしたということはできないから,本件事情③を考慮しても,上告人の期限の利益喪失の主張が利息制限法を潜脱する意図のものであるということはできないし,従前の態度に相反する行動となるということもできない。
 他方,前記事実関係によれば,被上告人P1は,本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後,当初の約定で定められた支払期日までに弁済したことはほとんどなく,1か月以上遅滞したこともあったというのであるから,客観的な本件各弁済の態様は,同被上告人が期限の利益を喪失していないものと誤信して本件各弁済をしたことをうかがわせるものとはいえない。
 そうすると,原審の掲げる本件事情①ないし③のみによっては,上告人において,被上告人P1が本件特約により期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反し許されないということはできないというべきである。
 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官竹内行夫,裁判官今井 功,同中川了滋,同古田佑紀

 貸金業者による再度期限の利益を付与があったとはいえない事例(最判平成21年4月14日時報1481号110頁)

貸金業者が,借主に対し,期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したとした原審の判断に違法があるとされた事例
       主   文
 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人平光哲弥,同板谷淳一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件本訴は,貸金業者である上告人が,借主である被上告人P1及びその連帯保証人である被上告人P2に対して貸金の返済を求めるものであり,本件反訴は,被上告人P1が,弁済によって過払金が生じているとして,上告人に対してその返還を求めるものである。被上告人P1が上記貸金の返済義務について期限の利益を喪失したか否か等が争われている。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,平成11年6月11日,被上告人P1に対し,480万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
 ア 利息    年29.8%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年36.5%(年365日の日割計算)
 ウ 弁済方法  平成11年7月から平成16年6月まで毎月5日限り,元金8万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約    元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う(以下「本件特約」という。)。
 (3) 被上告人P2は,平成11年6月11日,上告人に対し,本件貸付けに係る被上告人P1の債務について連帯保証した。
 (4) 被上告人P1は,上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙利息制限法再計算シート(以下「本件計算書」という。)の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の各金額を支払った。被上告人P1は,約定の支払期日である平成13年1月5日に元利金の支払をしなかったところ,上告人は,同日経過後も,被上告人P1に対し,残元利金の一括弁済を求めなかった。
 (5) 上告人は,被上告人P1から各弁済を受けた日の翌営業日に,被上告人P1に対し,弁済金の受領年月日,受領金額,充当額,残債務額等が記載された領収書兼利用明細書を郵送した。
 3 上告人は,①被上告人P1は,平成13年1月5日に支払うべき元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失した,②本件貸付けに係る債務の各弁済には,貸金業法43条1項又は3項の規定(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)が適用されるから,利息制限法1条1項又は同法4条1項(平成11年法律第155号による改正前のもの)に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,被上告人らに対し,本件貸付けの残元本205万6984円及び遅延損害金の支払を求めている(本訴請求)。
 これに対して,被上告人P1は,上告人は被上告人P1に対して上記期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を与えたから,遅延損害金は発生しておらず,また,上告人において期限の利益の喪失を主張することは,信義則に違反し,権利の濫用として許されないなどと主張して,本件計算書記載のとおり,本件貸付けに係る各弁済金のうち同法1条1項所定の利息の制限額を超えて支払われた部分を元本に充当して計算し,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金102万3740円及び民法704条前段所定の利息の支払を求めている(反訴請求)。
 なお,被上告人らは,上告人が取引履歴を開示することなく本訴を提起したことは不法行為に当たると主張して,上告人に対して損害賠償金を反訴請求していたが,これを棄却すべきものとした原判決に対し,不服を申し立てなかった。
 4 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし,被上告人P1の反訴請求のうち過払金返還請求を全部認容するとともに,民法704条前段所定の利息の請求を一部認容すべきものとした。
 (1) 本件貸付けに係る債務の各弁済については,貸金業法43条1項の規定は適用されない。
 (2) 被上告人P1は,約定の支払期日である平成13年1月5日に元利金を一切支払わなかったので,本件特約により,同日の経過をもって期限の利益を喪失した。
 (3) しかし,上告人は,その後も,被上告人P1に対し,残元利金の一括支払を請求しておらず,本件計算書記載のとおり,被上告人P1から,3年以上にわたり,回数にして100回,金額にして合計368万4466円の弁済を受けている。これを利息制限法1条1項所定の利率による利息及び元本に順次充当していくと,約定の最終弁済期より1年半以上前の平成14年10月には元本が完済され,以後過払金が発生していくことになる。そして,上告人は,元本完済後も約1年半にわたって被上告人P1からの弁済を受け続けていることになる。これらの事情を総合して考慮すると,上告人は,被上告人P1に対し,平成13年1月5日の支払期日を経過したことによる期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を与えたものと解するのが相当である。
 (4) 本件貸付けに係る債務の弁済金につき充当計算を行うに当たっては,上記期限の利益の喪失後も,利息制限法1条1項所定の利率により充当計算すべきところ,これによれば,本件計算書記載のとおり,過払金の額は合計102万3740円になる。
 5 しかし,原審の上記4(1)及び(2)の判断は是認できるが,同(3)及び(4)の判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 記録によれば,上告人は,上記期限の利益の喪失後は,本件貸付けに係る債務の弁済を受けるたびに,受領した金員を「利息」ではなく「損害金」へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,上告人に期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与する意思はなかったと主張していること(以下,この主張を「上告人の反対主張」という。),上告人は,これに沿う証拠として,上記期限の利益の喪失後に受領した金員の充当内容が記載された領収書兼利用明細書と題する書面を多数提出していること,これらの書面のうち,平成13年1月9日付けの書面及び受領金額が2737円と記載された同年2月6日付けの書面には,受領した金員を上記期限の利益を喪失した日までに発生した利息に充当した旨の記載がされているが,受領金額が8万6883円と記載された同日付けの書面及びこれより後の日付の各書面には,受領した金員を上記期限の利益を喪失した日の翌日以降に発生した損害金又は残元本に充当した旨の記載がされていること,この記載は,残元本全額に対する遅延損害金が発生していることを前提としたものであることが明らかである。
 上告人が,上記期限の利益の喪失後は,被上告人P1に対し,上記のような,期限の利益を喪失したことを前提とする記載がされた書面を交付していたとすれば,上告人が別途同書面の記載内容とは異なる内容の請求をしていたなどの特段の事情のない限り,上告人が同書面の記載内容と矛盾する宥恕や期限の利益の再度付与の意思表示をしたとは認められないというべきである。そして,上告人が残元利金の一括支払を請求していないなどの原審が指摘する上記4(3)の事情は,上記特段の事情に当たるものではない。
 然るに,原審は,上告人の反対主張について審理することなく,上告人が被上告人P1に対し,上記期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したと判断しているのであるから,この原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上記の点等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官藤田宙靖,裁判官堀籠幸男,同那須弘平,同田原睦夫,同近藤崇晴

 貸金業法律43条1項の不適用の場合と貸金業者の民法704条の「悪意の受益者」(最判平成19年7月13日裁判集民事225号103頁)

貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したことにつき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合と民法704条の「悪意の受益者」
       主   文
 原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人内藤満の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)被上告人は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超える利率の利息の約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 ① 平成 7年10月 2日  7万円
 ② 平成 8年 4月 4日 12万円
 ③ 平成 8年10月 2日 17万円
 ④ 平成 9年 4月 7日 22万円
 ⑤ 平成 9年10月 8日 25万円
 ⑥ 平成10年 4月 7日 24万円
 ⑦ 平成10年10月 7日 25万円
 ⑧ 平成11年 4月 6日 28万円
 ⑨ 平成11年10月 4日 30万円
 ⑩ 平成12年 4月26日 30万円
 ⑪ 平成12年10月 3日 35万円
 ⑫ 平成13年 5月 8日 35万円
 ⑬ 平成13年11月 1日 35万円
 ⑭ 平成14年 5月 2日 30万円
 ⑮ 平成14年11月 5日 30万円
 ⑯ 平成15年 5月 1日 30万円
 ⑰ 平成15年11月 4日 30万円
 (3)上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 (4)被上告人は,本件各弁済のうち,被上告人の店舗への持参の方法による支払がされた場合にはその都度「領収書兼残高確認書」と題する書面(以下「本件各領収書」という。)を交付したが,被上告人の預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には本件各領収書を交付しなかった。
 被上告人は,本件各弁済のすべてに貸金業法43条1項の適用があることを前提として,受領した弁済金につき充当計算をし,本件各領収書を作成した。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還及び過払金の発生時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払を求める事案である。
 被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの都度,各回の返済期日,各回の返済金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表を交付しており,上告人はこれを知った上で被上告人の預金口座に払込みをしていたものであるから,預金口座に対する払込みの場合に貸金業法18条1項に規定する事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を交付しなくても,被上告人は本件各弁済の時点において貸金業法43条1項の適用要件を満たしていると信じていたのであって,民法704条の「悪意の受益者」ではないと主張している。
 3 原審は,次のとおり判断して,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることはできないとした。
 悪意の受益者とは,法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうところ,法律上の原因の存否は,受益者の利得について問題とされるものである以上,受益者が法律上の原因がないことを知っているというためには,当然,当該利得の存在を知っていることをも要するものというべきであるが,被上告人が過払金の発生当時において,過払金の発生を知っていたと認めることはできない。仮に,受益者が法律上の原因がないことを基礎付ける事実を認識している場合には自己の利得に法律上の原因がないとの認識を有していたことが事実上推定されると解したとしても,この点に関する最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日判決・民集53巻1号98頁(以下「平成11年判決」という。)の前はもとより,最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日判決・民集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたのであるから,本件では上記推定は妨げられるというべきである。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。
 平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと判示したものである。
 被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。従って,平成11年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。なお,平成16年判決は,債務者が貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではない。
 そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。
 従って,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官今井 功,裁判官津野 修,同中川了滋,同古田佑紀

 貸金業法律43条1項の不適用の場合と貸金業者の民法704条の「悪意の受益者」(最判平成19年7月13日民集61巻5号1980頁)

1 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したことにつき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合と民法704条の「悪意の受益者」
2 各回の返済金額について一定額の元利金の記載と共に別紙償還表記載のとおりとの記載のある借用証書の写しが借主に交付された場合において,当該償還表の交付がなければ貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面の交付があったとはいえないとされた事例
       主   文
 1 原判決中,上告人の敗訴部分のうち不当利得返還請求に関する部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を却下する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人遠山秀典の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)被上告人は,利息の定めを後記(3)のとおりとし,返済方式を元利均等方式とする旨の条項を含む約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを,番号に従い,「本件①貸付け」などといい,「本件各貸付け」と総称する。)。
 ① 平成 5年 1月28日 10万円
 ② 平成 5年 8月 5日 15万円
 ③ 平成 6年 2月10日 20万円
 ④ 平成 7年 1月11日 20万円
 ⑤ 平成 8年 4月24日 30万円
 ⑥ 平成 9年 6月 6日 32万円
 ⑦ 平成10年 2月16日 32万円
 ⑧ 平成10年 9月 4日 30万円
 ⑨ 平成12年 4月 7日 20万円
 ⑩ 平成12年 9月 7日 30万円
 ⑪ 平成13年 3月29日 30万円
 ⑫ 平成13年 9月 4日 35万円
 ⑬ 平成14年 5月 8日 15万円
 ⑭ 平成15年10月22日 20万円
 (3)本件各貸付けの約定利率は,本件①~⑤貸付けについては年40.004%(年365日の日割計算。以下利率につき同じ。),本件⑥~⑨貸付けについては年39.785%,本件⑩~⑭貸付けについては年28.981%とされていた。
 (4)被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しである「省令第16条第3項に基づく書面の写」と題する書面(以下「本件各契約書面」という。)をそれぞれ交付した。本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があったほか,過不足金が生じたときは最終回に清算する旨の定めもあり,被上告人が交付したと主張し,証拠として提出している償還表に記載された最終回の返済金額は元利金として記載された一定額とは異なっていた。被上告人は,本件⑫~⑭貸付けに係る契約を締結した際には,上告人に対し,償還表を交付した。
 (5)上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙計算書の「年月日」欄記載の各年月日に「支払額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」という。)。
 (6)本件各弁済の中には,被上告人から上告人に交付された「領収書兼残高確認書」と題する書面の記載内容が,貸金業法18条1項に規定する事項を満たさないものもあるが,被上告人は,それらの書面についても,上記事項を満たし,同法43条1項が適用されるものと考えていた。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けの弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金及び過払金の発生時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払等を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断して,本件各契約書面は,貸金業法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)ということができるとして,同法18条1項所定の事項を記載した書面の交付を欠く弁済を除く本件各弁済について同法43条1項が適用されることを前提に過払金の額を算定し,かつ,過払金について,被上告人は本訴の訴状が送達されるまでは悪意の受益者であるということはできないとした。
 (1)本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に元利金として一定額の記載があるから,本件①~⑪貸付けに係る本件各契約書面は,償還表が別紙として添付されているか否かにかかわらず,貸金業法17条1項9号,貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チの各回の「返済金額」の記載要件を充足する。
 (2)民法704条にいう「悪意」とは,法的に不当利得の返還義務を負っていることを認識していることを意味するものであり,貸金業者において貸金業法43条1項が適用される可能性があることを認識している場合には上記の認識があるとはいえない。貸金業者は,資金を高利で運用して利益を得るという経済活動をしているとはいえ,個々の顧客について常に同項の適用の有無を把握していたと断定することはできず,このことは被上告人についても同様である。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)原審の上記3(1)の判断について
 貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解されるから,貸金業法17条1項所定の事項の記載があるとして交付された書面の記載内容が正確でないときや明確でないときには,同法43条1項の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(受)第1653号同18年1月24日判決・民集60巻1号319頁参照)。
 これを本件についてみると,17条書面には各回の「返済金額」を記載しなければならないところ(貸金業法17条1項9号(平成12年法律第112号による改正前は同項8号),施行規則13条1項1号チ),前記事実関係等によれば,本件各契約書面の「各回の支払金額」欄には「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は本件各契約書面と併せて一体の書面をなすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされているものであって,「各回の支払金額」欄に各回に支払うべき元利金が記載されているとしても,最終回の返済金額はそれと一致しないことが多く,現に本件においても相違しているのであり,その記載によって各回の返済金額が正確に表示されるものとはいえないというべきである。
 それにもかかわらず,原審は,本件①~⑪貸付けにつき,償還表の交付の有無についての認定判断をしないで,本件各契約書面の交付をもって,17条書面の交付があったものと認められると判断したものであるから,原審の上記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2)原審の上記3(2)の判断について
 金銭を目的とする消費貸借において利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,少なくともその一部については貸金業法43条1項の適用が認められないというのであるから,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であると推定されるものというべきである。
 そうすると,上記特段の事情の有無について判断することなく,貸金業者において貸金業法43条1項が適用される可能性があることを認識している場合には悪意の受益者ということはできないとして,同項が適用されない弁済について被上告人は訴状送達の日までは悪意の受益者であるということはできないとした原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。
 5 以上によれば,論旨はいずれも理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分のうち,不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,償還表の交付の有無,上記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく慰謝料請求もしたが,同請求については上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同請求に関する上告は却下する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官津野 修,裁判官今井 功,同中川了滋,同古田佑紀


 貸金業法律43条1項の適用が認められない場合と貸金業者の民法704条の「悪意の受益者」」(最判平成19年7月17日裁判集民事225号201頁)

1 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したことにつき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合と民法704条の「悪意の受益者」
2 利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,判例の正しい理解に反して貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面の交付がなくても同法43条1項の適用があるとの認識を有していたとしても,民法704条の「悪意の受益者」であるとする推定を覆す特段の事情があるとはいえないとされた事例
       主   文
 1 原判決中,上告人の敗訴部分のうち,平成6年5月4日以降の取引に係る不当利得返還請求に関する部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人井上元,同中井洋恵の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)上告人は,被上告人との間で,平成元年4月25日ころ,クレジットカードを利用して被上告人から繰り返し金銭の借入れを受けることができる旨,返済日は毎月27日とし,返済方法は元利均等分割返済方式とする旨の条項を含むクレジットカード会員契約(以下「本件カード契約」という。)を締結した。
 上記借入れの約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超過している。
 (3)被上告人は,上告人に対し,本件カード契約に基づき,第1審判決別紙計算書(ただし,原判決による訂正後のもの。以下同じ。)の「年月日」欄記載の各年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け(以下,これらの各貸付けを「本件各貸付け」と総称する。),上告人は,被上告人に対し,同計算書の「年月日」欄記載の各年月日に「返済金額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称し,本件カード契約に基づく全体としての取引を「本件取引」という。)。
 (4)被上告人は,本件各弁済に貸金業法43条1項の規定の適用がある旨の主張立証をすることなく,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)をその当時存在する他の貸金債権に充当することを前提とした計算書を提出している。この計算書では,貸金債権が存在することになっているが,被上告人は,本訴提起前の平成17年1月12日に上告人代理人弁護士に対し,10万6622円の過払金があると届け出ている(以下「本件届出」という。)。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,制限超過部分を元本に充当すると,第1審判決別紙原告計算書のとおり過払金が発生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金239万6557円及び民法704条前段所定の法定利息(以下,単に「法定利息」という。)1万3558円並びに本件取引の終了の日以降の上記過払金に対する年5分の割合による法定利息又は遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 前記事実関係等の下において,第1審は,過払金及び法定利息の合計額237万0127円並びに過払金に対する法定利息又は遅延損害金の支払を求める限度で上告人の請求を認容し,その余の請求を棄却した。被上告人が,第1審判決中被上告人敗訴部分を不服として控訴したところ,原審は,本件取引のうち平成3年5月27日までの取引は一体をなすものであり,同日までの本件各弁済によって発生した不当利得返還請求権については,それまでに金額が確定し権利行使が可能になったものということができるから,同日から10年の経過により,時効消滅しているとしてこれを認めず,同日以降の最初の貸付日である平成6年5月4日以降の本件取引について,次のとおり判断して,上告人の請求を過払金19万9964円及びこれに対する本件届出の日以降の法定利息の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
 (1)本件取引により発生する貸金債権と不当利得返還請求権の清算については,本件各貸付けは合算されて1個の貸付けとなり,弁済は,その1個の債権に対するものとして扱い,過払金が生じた場合は不当利得返還請求権が発生し,その後貸付けがされた場合には,その貸金債権と不当利得返還請求権が当然に差引計算されるという上告人主張の計算方法によるというのが当事者の合理的意思であると認められる。
 (2)被上告人が本件各貸付けによる貸金債権が別個のものであることを前提とする充当計算をしてきたことからすると,被上告人が貸金債権が残存すると考えることにも相当の理由があり,被上告人が本件届出において過払金の発生を自認するまでは悪意の受益者であると認めることはできない。
 4 しかし,原審の上記3(2)の判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 貸金業者が借主に対して制限利率を超過した約定利率で貸付けを行った場合,貸金業者は,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるにとどまり,同規定の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる特段の事情がある場合でない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したことが明らかであるところ,被上告人は,本訴において貸金業法43条1項の適用があることについて主張立証せず,本件各弁済の弁済金のうち,制限超過部分をその当時存在する他の貸金債権に充当することを前提とした計算書を提出しているのであるから,上記各弁済金を受領した時点において貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有していたとの主張をしているとはいえず,上記特段の事情を論ずる余地もないというほかない。被上告人が受領した弁済金について本件各貸付けによる貸金債権が別個のものであることを前提とする充当計算をしてきたとしても,それによって上記判断が左右されることはない。従って,本件各弁済によって過払金が生じていれば,被上告人は上告人に対し,悪意の受益者として法定利息を付してこれを返還すべき義務を負うものというべきであるから,原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分のうち,平成6年5月4日以降の本件取引に係る不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 なお,平成6年5月4日より前の本件取引に係る不当利得返還請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官堀籠幸男,裁判官藤田宙靖,同那須弘平,同田原睦夫,同近藤崇晴

 過払金返還請求権の消滅時効は継続的な金銭消費貸借取引の終了時から進行するか(最判平成21年7月17日判例タイムズ1301号116頁)

過払金返還請求権の消滅時効は継続的な金銭消費貸借取引が終了した時から進行するとして,過払金返還請求及び過払金発生時からの民法704条所定の利息の請求が認容された事例
       主   文
 1 原判決を次のとおり変更する。
 第1審判決を次のとおり変更する。
 (1) 被上告人は、上告人に対し、71万9353円及びこれに対する平成19年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 上告人のその余の請求を棄却する。
 2 訴訟の総費用は、これを3分し、その1を上告人の、その余を被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人火矢悦治,同吉岡康祐,同田中将之の上告受理申立て理由第3について
 1 本件は,上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。被上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成したと主張してこれを争っている。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,平成2年4月17日,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約1」という。)を締結した。
 上告人と被上告人は,同日から平成9年6月16日までの間,本件基本契約1に基づき,原判決別紙計算書(ただし,「2分割・前半」とある部分)記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引1」という。)を行った。
 (3) 本件取引1における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約1に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約1は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 過払金充当合意に基づき,本件取引1により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,前記原判決別紙計算書記載のとおりであり,過払金は47万1421円である。そして,被上告人は悪意の受益者であり,上記過払金に対する過払金発生時から平成19年11月30日までの民法704条所定の利息は24万6624円である。
 (4) また,上告人は,平成11年4月21日,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約2」という。)を締結した。
 上告人と被上告人は,同日から平成19年3月16日までの間,本件基本契約2に基づき,原判決別紙計算書(ただし,「2分割・後半」とある部分)記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引2」という。)を行った。これにより発生した過払金は36万3447円であり,これに対する過払金発生時から平成19年11月30日までの民法704条所定の利息は1万7889円である。
 (5) 上告人は,平成19年5月23日,被上告人に対し過払金を返還することを催告し,同年7月10日に本件訴えを提起した。
 被上告人は,本件取引1により発生した過払金に係る不当利得返還請求権のうち,平成9年7月10日以前の弁済によって発生した部分は,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
 (6) 被上告人は,第1審判決後の平成19年11月30日,過払金返還債務の履行として,上告人に対し38万0028円を支払い,上告人は原審において請求を減縮した。
 3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を3955円及びうち3046円に対する平成19年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すベきものとした。
 金銭消費貸借取引において生ずる過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,法定の原因によって発生する債権であり,発生した時点から行使することが可能であるから,各個別取引によって過払金が発生する都度消滅時効が進行を開始すると解するのが相当である。本件取引1により発生した過払金返還請求権のうち,平成9年5月23日までの弁済により発生した過払金46万9683円及びこれに対する利息については,上告人が催告をして時効を中断した平成19年5月23日の時点で既に時効期間が経過していたから,時効により消滅した。
 残存している過払金返還請求権は,本件取引1につき2647円,本件取引2につき38万1336円の合計38万3983円であり,被上告人が弁済した38万0028円をこれに充当すると,残額は3955円である。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日判決・民集63巻1号247頁,最高裁平成20年(受)第543号同21年3月3日判決・裁判所時報1479号1頁,最高裁平成20年(受)第1170号同21年3月6日判決・裁判所時報1479号3頁参照)。
 前記事実関係によれば,本件基本契約1は過払金充当合意を含むものであり,本件において上記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引1により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,本件取引1が終了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件取引1がされていたのは平成2年4月17日から平成9年6月16日までであったというのであるから,消滅時効期間が経過する前に催告がされ,その6か月以内に本件訴えが提起されて消滅時効が中断したことは明らかであり,本件において本件取引1により発生した過払金返還請求権の消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由がある。
 そして,前記事実関係によれば,本件取引1及び2により発生した過払金は合計83万4868円であり,貸主が悪意の受益者である場合における民法704条所定の利息は,過払金発生時から発生するから,平成19年11月30日までに発生した同条所定の利息は合計26万4513円であるところ,同日に被上告人が支払った38万0028円を利息,元本の順に充当すると,上告人の被上告人に対する過払金返還請求権は71万9353円が残存している。
 そうすると,上告人の請求は,71万9353円及びこれに対する平成19年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すベきである。従って,これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官竹内行夫,裁判官今井功,同中川了滋,同古田佑紀

 期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限超過利息の支払の任意性を否定した最高裁判決日以前にされた制限超過支払につき貸金業者が同特約下でこれを受領したことと民法704条の「悪意の受益者」と推定の可否(最判平成21年7月10日民集63巻6号1170頁)

期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を否定した最高裁判所の判決の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約の下でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推定することの可否
       主   文
 1 原判決中,不当利得返還請求に関する部分のうち,上告人の敗訴部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第8について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,被上告人に対し,原判決別紙の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年8月7日から平成15年9月4日までの間に12回にわたって金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 本件各貸付けにおいては,① 元本及び利息制限法1条1項所定の制限を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する,② 被上告人は,約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには,当然に期限の利益を失い,上告人に対して直ちに債務の全額を支払う(以下「本件特約」という。)との約定が付されていた。
 (3) 被上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年9月2日から平成16年11月1日までの間,上告人に金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した上,原判決別紙のとおり,制限超過部分が貸付金の元本に充当されることにより発生した過払金及びこれに対する法定利息がその後の貸付けに係る借入金債務に充当され,その結果,最終の弁済日である平成16年11月1日の時点で,過払金51万4749円及び法定利息1万3037円が存するとして,以上の合計52万7786円及び上記過払金51万4749円に対する同月2日から支払済みまでの法定利息の支払を求める限度で,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を認容した。
 (1) 最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日判決・民集60巻1号1頁(以下「平成18年判決」という。)は,債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。また,最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日判決・民集61巻5号1980頁(以下「平成19年判決」という。)は,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨判示している。
 (2)ア 本件各弁済は,期限の利益喪失特約である本件特約の下でされたものであって,平成18年判決によれば,いずれも貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないから,同項の規定の適用要件を欠き,制限超過部分の支払は有効な利息債務の弁済とはみなされない。
 イ そして,平成18年判決は,それまで下級審において判断が分かれていた期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払の任意性について最高裁として示した初めての判断であって,その言渡し以前において,上記支払が任意性を欠くものではないとの解釈が最高裁の判例により裏付けられていたわけではないから,上告人が本件特約の下で本件各弁済に係る制限超過部分の支払を受領したことについて,平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,上告人は過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であると認められる。
 4 しかし,原審の上記3(2)のアの判断は是認できるが,同イの判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 平成18年判決及び平成19年判決の内容は原審の判示するとおりであるが,平成18年判決が言い渡されるまでは,平成18年判決が示した期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払(以下「期限の利益喪失特約下の支払」という。)は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないとの見解を採用した最高裁の判例はなく,下級審の裁判例や学説においては,このような見解を採用するものは少数であり,大多数が,期限の利益喪失特約下の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って,同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは,公知の事実である。平成18年判決と同旨の判断を示した最高裁平成16年(受)第424号同18年1月24日判決・裁判集民事219号243頁においても,上記大多数の見解と同旨の個別意見が付されている。
 そうすると,上記事情の下では,平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。従って,平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。
 (2) これを本件についてみると,平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の制限超過部分の支払については,期限の利益喪失特約下の支払であるため,支払の任意性の点で貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息債務の弁済とはみなされないことになるが,上告人がこれを受領しても,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められないのであるから,制限超過部分の支払について,それ以外の同項の適用要件の充足の有無,充足しない適用要件がある場合は,その適用要件との関係で上告人が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ,上告人が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである。然るに,原審は,上記のような検討をすることなく,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の支払について上告人を悪意の受益者と認めたものであるから,原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,不当利得返還請求に関する部分のうち,上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,前記検討を必要とする点等につき更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,同部分に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官中川了滋,裁判官今井 功,同古田佑紀,同竹内行夫

 期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限超過利息の支払の任意性を否定した最高裁判決日以前にされた制限超過支払につき貸金業者が同特約下でこれを受領したことと民法704条の「悪意の受益者」と推定の可否(最判平成21年7月14日裁判集民事231号357頁)

期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を否定した最高裁判所の判決の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約の下でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推定することの可否
       主   文
 1 原判決中,不当利得返還請求についての上告人の控訴を棄却した部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を却下する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第3について
 1 本件は,被上告人らが,それぞれ,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,
 ア 被上告人Q1に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書1」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年9月18日から平成16年11月17日までの間に15回にわたって,
 イ 被上告人Q2に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書2」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年7月5日から平成15年1月6日までの間に16回にわたって,
 ウ 被上告人Q3に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書3」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年2月5日から平成16年9月3日までの間に17回にわたって,
 エ 被上告人Q4に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書4」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年1月4日から平成18年1月10日までの間に21回にわたって,
 オ 被上告人Q5に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書5」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年1月9日から平成18年2月2日までの間に20回にわたって,
 カ 被上告人Q6に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書6」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年2月24日から平成18年2月14日までの間に14回にわたって,
それぞれ金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 本件各貸付けにおいては,① 元本及び利息制限法1条1項所定の制限を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する,② 被上告人らは,約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには,当然に期限の利益を失い,上告人に対して直ちに債務の全額を支払う(以下「本件特約」という。)との約定が付されていた。
 (3) 本件各貸付けに係る債務の弁済として,
 ア 被上告人Q1は,第1審判決別紙「法定金利計算書1」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年10月13日から平成17年10月17日までの間,
 イ 被上告人Q2は,第1審判決別紙「法定金利計算書2」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年8月3日から平成15年4月1日までの間,
 ウ 被上告人Q3は,第1審判決別紙「法定金利計算書3」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年3月5日から平成16年11月2日までの間,
 エ 被上告人Q4は,第1審判決別紙「法定金利計算書4」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年2月5日から平成18年1月10日までの間,
 オ 被上告人Q5は,第1審判決別紙「法定金利計算書5」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年2月6日から平成18年2月2日までの間,
 カ 被上告人Q6は,第1審判決別紙「法定金利計算書6」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年3月25日から平成18年3月13日までの間,
それぞれ上告人に金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した上,第1審判決別紙「法定金利計算書1」ないし「法定金利計算書6」のとおり,制限超過部分が貸付金の元本に充当されることにより発生した過払金及びこれに対する法定利息がその後の貸付けに係る借入金債務に充当され,その結果,被上告人Q1,同Q2,同Q3及び同Q6については,最終の取引日の時点で過払金及び法定利息が,被上告人Q4及び同Q5については,最終の取引日の時点で過払金が,それぞれ存するとして,それらの過払金及び法定利息の合計額(被上告人Q4及び同Q5については過払金)並びに過払金に対する最終の取引日の翌日から支払済みまでの法定利息の支払を求める限度で,各被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を認容すべきものとした。
 (1) 最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日判決・民集60巻1号1頁(以下「平成18年判決」という。)は,債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。また,最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日判決・民集61巻5号1980頁(以下「平成19年判決」という。)は,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨判示している。
 (2)ア 本件各弁済は,期限の利益喪失特約である本件特約の下でされたものであって,平成18年判決によれば,いずれも貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないから,同項の規定の適用要件を欠き,制限超過部分の支払は有効な利息債務の弁済とはみなされない。
 イ そして,平成18年判決の言渡し前において,上告人が,本件期限の利益喪失特約があっても制限超過部分の支払につき同項の適用があるとの認識を有していたとしても,当時,そのような認識に一致する裁判例や学説が一般的であったとはいえないから,上告人において,本件各弁済に係る制限超過部分の支払につき同項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるということはできず,上告人は過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であると認められる。
 4 しかし,原審の上記3(2)のアの判断は是認できるが,同イの判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 平成18年判決及び平成19年判決の内容は原審の判示するとおりであるが,平成18年判決が言い渡されるまでは,平成18年判決が示した期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払(以下「期限の利益喪失特約下の支払」という。)は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないとの見解を採用した最高裁の判例はなく,下級審の裁判例や学説においては,このような見解を採用するものは少数であり,大多数が,期限の利益喪失特約下の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って,同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは,公知の事実である。平成18年判決と同旨の判断を示した最高裁平成16年(受)第424号同18年1月24日判決・裁判集民事219号243頁においても,上記大多数の見解と同旨の個別意見が付されている。
 そうすると,上記事情の下では,平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。従って,平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない(最高裁平成20年(受)第1728号同21年7月10日判決・裁判所時報1487号登載予定参照)。
 (2) これを本件についてみると,平成18年判決の言渡し日以前の被上告人らの制限超過部分の支払については,期限の利益喪失特約下の支払であるため,支払の任意性の点で貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息債務の弁済とはみなされないことになるが,上告人がこれを受領しても,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められないのであるから,制限超過部分の支払について,それ以外の同項の適用要件の充足の有無,充足しない適用要件がある場合は,その適用要件との関係で上告人が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ,上告人が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである。然るに,原審は,上記のような検討をすることなく,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成18年判決の言渡し日以前の被上告人らの支払について上告人を悪意の受益者と認めたものであるから,原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,不当利得返還請求についての上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れない。そこで,前記検討を必要とする点等につき更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官近藤崇晴,裁判官藤田宙靖,同堀籠幸男,同那須弘平,同田原睦夫

商行為である金銭消費貸借と利息制限法制限超過の利息損害金の不当利得返還請求権の消滅時効期間(最判昭和55年1月24日民集34巻1号61頁)

商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人鈴木光春,同井口寛二の上告理由一ないし三について
 債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に金銭消費貸借上の利息・損害金の支払いを継続し,その制限超過部分を元本に充当すると,計算上元本が完済となったとき,その後に支払われた金額は,債務が存在しないのにその弁済として支払われたものにほかならず,債務者において不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四一年(オ)第一二八一号同四三年一一月一三日大法廷判決・民集二二巻一二号二五二六頁),また,債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払った場合においても,その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり,右制限に従った元利合計額をこえる支払額は,債務者において不当利得としてその返還を請求することができるものと解すべきことも,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和四四年(オ)第二八〇号同年一一月二五日判決・民集二三巻一一号二一三七頁)。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,被上告人の不当利得返還請求権の発生を認めた原審の判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は,その前提を欠く。論旨は,畢竟独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず,採用できない。
 同四,五,七,八について
 所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,畢竟,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に基づき若しくは原審において主張しなかった事項について原判決を論難するものにすぎず,いずれも採用できない。
 同六について
 商法五二二条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は,法律の規定によって発生する債権であり,しかも,商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて,商行為によって生じた債権に準ずるものと解することもできないから,その消滅時効の期間は民事上の一般債権として民法一六七条一項により一〇年と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用できない。
 よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条に従い,裁判官団藤重光,同中村治朗の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官団藤重光の反対意見は,次のとおりである。
 わたくしは,中村裁判官の反対意見に同調する。
 裁判官中村治朗の反対意見は,次のとおりである。
 私は,上告理由六につき多数意見と見解を異にし,論旨を採用して原判決を破棄すべきものと考える。その理由は,次のとおりである。
 商法五二二条本文の時効期間の規定が,商事取引関係の迅速な解決を図るため,商行為によって生じた債権につき一般民事債権の場合に比し短期の消滅時効期間を定めたものであること,及び商行為に属する法律行為から直接生じた債権でなくても,なお右規定の趣旨にかんがみてこれに準ずべき債権とみられるものについては,同条の適用又は類推適用により商事債権として右短期の消滅時効期間に服するものと解すべきことについては,私も多数意見と全く見解を一にするものであり,多数意見と私見との違いは,多数意見が本件不当利得返還請求権は右の「準ずべき債権」にあたらないとするのに対し,私見はこれにあたると解する点にある。
 本件不当利得返還請求権は,被上告人が上告人から借り受けた金員につき上告人に対して支払った約定利息金及び元金のうち,利息制限法の適用上過払となる金額について,上告人が法律上の原因なくして利得したものとしてその返還を請求するというものである。そして上告人の主張によれば,被上告人は商人で,前記消費貸借契約は被上告人がその営業のために行ったものであり,同契約は附属的商行為にあたるというのであるから,問題は,商行為に属する契約の全部又は一部が無効であるため,右契約上の義務の履行としてされた給付による利得につき生ずる不当利得返還請求権を,時効期間の関係で,商行為によって生じた債権に準ずべき債権と解すべきかどうかに帰着すると考えてよいと思われる(もっとも,利息制限法に違反する約定が反公序良俗性ないし強い違法性をもち,これに基づいてされた給付による利得の保持自体がこのような評価を受けるものであれば,また別の考慮を必要とするであろうが,利息制限法上過払となる金員の支払は,単に契約が一部無効であるため債務がないのにあるものとしてその履行がされたというにすぎないものと考えられるので,上記のように一般化して事を論ずれば足りると思う。)。
 ところで,商事契約の解除による原状回復義務が商法五二二条の商事債務たる性質を有することは,当裁判所の判例とするところであるが(最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同三五年一一月一日判決・民集一四巻一三号二七八一頁),その趣旨は,契約解除による原状回復は,契約によって生じた法律関係を清算するものとしていわばこれと裏腹をなすものであり,商事契約に基づく法律関係の早期結了の要請は,その解除に伴う既発生事態の清算関係についてもひとしく妥当するから,解除による原状回復義務についても,契約そのものに基づく本来の債務と同様商事債務としての消滅時効期間に服せしめるべきであるとするにあると考えられる。ところで,一般に,契約解除による原状回復は,契約上の義務の履行としてされた財貨の移動につき,その後契約の解除によってそれが法律上の原因を欠くこととなったため,これによる利得を相互に返還せしめて契約の履行前の状態に復せしめようとするものであり,法律上の原因によらない利得の返還という点においては,右の原状回復義務は,本質的には不当利得返還義務にほかならないということができるのである。他方,不当利得返還の場合の中でも,契約上の義務の履行としてされた給付が右契約の無効等の理由により法律上の原因を欠くこととなり,その給付による利得につき不当利得返還義務が生ずるような場合は,契約の履行によって生じた関係を清算するものである点において契約解除による原状回復の場合と全く選ぶところがない。そうすると,このような場合の不当利得の返還は,契約解除による原状回復と同じく,契約によって生じた法律関係を清算するものとしてこれと裏腹をなし,右契約が商事契約である場合には,右の清算関係についても早期結了の要請がひとしく妥当するものということができるのであり,一が契約解除という法律行為を媒介として生ずる法律関係であり,他が法律行為を媒介としないで法律の規定から直接に生ずるそれであるということは,右の両者を異別に取り扱う合理的理由となるものではないというほかはないように思われる。私は,以上のような理由から,商事契約の無効等の理由によって右契約に基づいてされた給付による利得につき不当利得返還請求権が生ずる場合には,右債権は,商事債権ないしはこれに準ずるものとして,商法五二二条所定の消滅時効期間に服すべきものと解するのが相当であると考えるものであり,これと異なる多数意見には賛同することができない。そして,原判決は,本件不当利得返還請求権につき,本件消費貸借が商行為であると否とに関係なく,一般民事債権としてその消滅時効期間を一〇年とし,上告人の時効の抗弁を排斥したものであるから,右は法令の解釈適用を誤ったものといわざるをえず,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,この点に関する論旨は理由があるものとして原判決を破棄し,更に審理を尽させるため,本件を原審に差し戻す旨の裁判をすべきものと考える。
       最高裁裁判長裁判官団藤重光,同藤崎萬里,同本山亨,同戸田弘,同中村治朗

 利息制限法制限利率を超過する利息部分を目的とする準消費貸借契約の効力(最判昭和55年1月24日裁判集民事129号81頁)

利息制限法所定の制限利率を超過する利息部分を目的として締結された準消費貸借契約の効力
       主   文
 上告人の敗訴部分中,金六〇万円及びこれに対する昭和五三年九月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき,原判決を破棄する。
 右破棄部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
 上告人の被上告人八島に対するその余の上告及び被上告人村田に対する上告を棄却する。
 前項の上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人江谷英男,同藤村睦美の上告理由第一点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,他に特段の主張・立証のない本件においては,被上告人村田が上告人から原判示の五〇〇万円を受領し被上告人P名義で預金した行為をもって被上告人らの不法行為であるとすることはできないとした原審の判断は,正当として是認するに足り,原判決に所論の違法はない。論旨は,原判決を正解しないでその判断を論難するものにすぎず,採用できない。
 同第二点について
 原審は,上告人の被上告人Pに対する予備的請求につき同被上告人から提出された相殺の抗弁の当否を判断するにあたり,同被上告人が上告人に対し昭和四四年九月一一日に成立した準消費貸借契約に基づく貸金三〇〇万円の債権を有することを認定し,右債権を自働債権とする限度で右抗弁は理由があるものとの判断を示している。
 しかし,原審が適法に確定したところによると,右の準消費貸借契約の目的となった旧債務は,上告人側が被上告人Pから借り受けた元本人〇〇万円に対する月五分の割合による昭和四四年六月分及び七月分の利息合計八〇万円を含む総計三三八万九一〇〇円にのぼる上告人側の被上告人Pに対する債務のうちの三〇〇万円であるというのであるが,右に挙げた元本八〇〇万円の消費貸借上の債務に対する利息制限法所定の利息の最高限度額は一か月につき一〇万円であることが計数上明らかであるから,右八〇万円のうち昭和四四年六月分及び七月分の利息合計二〇万円を超える六〇万円については利息制限法一条に違反する約定によるものとして利息債権は存在しないといわなければならず,従って,準消費貸借上の債権もの限度で存在しないこととなるから,右準消費貸借上の債権を自働債権とする相殺の抗弁を容認した原判決は不存在の右債権額の限度で違法であり,右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,論旨は理由がある。もっとも,右六〇万円が含まれている三三八万九一〇〇円の債務は,三〇〇万円と三八万九一〇〇円とに二分され,前者のみが消費貸借の目的とされたというのであり,不存在の債権である右六〇万円の部分がどの限度で前者に含まれているかは明らかでないが,右六〇万円の全額が原審の認容にかかる相殺の自働債権である三〇〇万円の債権に含まれている可能性がある以上,その全額が含まれているものとしてその限度で原判決を破棄し,右部分につきさらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきである。
 次に,論旨は,相殺の自働債権となった右三〇〇万円の債権の旧債権の中に被上告人Pの有する仲介人報酬債権が含まれていたことを前提とし,宅地建物取引業法所定の制限を超える報酬約定が無効であることを理由として,原審のした相殺の抗弁に対する判断に違法があるというが,所論仲介人報酬債権が自働債権となった右三〇〇万円の債権の旧債権に含まれていないことは,原判決の判文に照らして明らかであるから,所論は前提を欠くものであり,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用できない。
 同第三点について
 原審の確定した事実関係のもとにおいては,上告人が被上告人Pに対し五〇〇万円を寄託した行為は,民法六六六条所定の寄託に該当するものと解するのが相当であり,原審もまたその趣旨を判示したものと解されるから,利息の約定についてその立証がない旨の判断を示して利息金請求部分を棄却した原判決に所論の違法はない。論旨は,採用できない。
   最高裁裁判長裁判官戸田 弘,裁判官団藤重光 同藤崎萬里 同本山 亨 同中村治朗

 利息制限法違反の超過利息部分を目的とする準消費賃借契約上の債権による相殺の効力(最判昭和55年1月24日判例タイムズ408号70頁)

利息制限法違反の超過利息部分を目的として締結された準消費賃借契約上の債権を自働債権としてされた相殺の効力
       主   文
 上告人の敗訴部分中,金六○万円及びこれに対する昭和五三年九月二○日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき,原判決を破棄する。
 右破棄部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
 上告人の被上告人Pに対するその余の上告及び被上告人村田に対する上告を棄却する。
 前項の上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人江谷英男,同藤村睦美の上告理由第一点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,他に特段の主張・立証のない本件においては,被上告人村田が上告人から原判示の五〇〇万円を受領し被上告人P名義で預金した行為をもって被上告人らの不法行為であるとすることはできないとした原審の判断は,正当として是認するに足り,原判決に所論の違法はない。論旨は,原判決を正解しないでその判断を論難するものにすぎず,採用できない。
同第二点について
 原審は,上告人の被上告人Pに対する予備的請求につき被上告人から提出された相殺の抗弁の当否を判断するにあたり,同被上告人が上告人に対し昭和四四年九月一一日に成立した準消費貸借契約に基づく貸金三〇〇万円の債権を有することを認定し,右債権を自働債権とする限度で右抗弁は理由があるものとの判断を示している。
 しかし,原審が適法に確定したところによると,右の準消費貸借契約の目的となった旧債務は,上告人側が被上告人Pから借り受けた元本八○○万円に対する月五分の割合による昭和四四年六月分及び七月分の利息合計八〇万円を含む総計三三八万九一○○円にのぼる上告人側の被上告人Pに対する債務のうちの三〇〇万円であるというのであるが,右に挙げた元本八○○万円の消費貸借上の債務に対する利息制限法所定の利息の最高限度額は一か月につき一○万円であることが計数上明らかであるから,右八○万円のうち昭和四四年六月分及び七月分の利息合計二○万円を超える六○万円については利息制限法一条に違反する約定によるものとして利息債権は存在しないといわなければならず,従って,準消費貸借上の債権も右の限度で存在しないこととなるから,右準消費貸借上の債権を自働債権とする相殺の抗弁を認容した原判決は不存在の右債権額の限度で違法であり,右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,論旨は理由がある。もっとも,右六○万円が含まれている三三八万九一○○円の債務は,三○○万円と三八万九一○○円とに二分され,前者のみが消費貸借の目的とされたというのであり,不存在の債権である右六〇万円の部分がどの限度で前者に含まれているかは明らかでないが,右六○万円の全額が原審の認容にかかる相殺の自働債権である三○○万円の債権に含まれている可能性がある以上,その全額が含まれているものとしてその限度で原判決を破棄し,右部分につきさらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきである。
 次に,論旨は,相殺の自働債権となった右三○○万円の債権の旧債権の中に被上告人Pの有する仲介人報酬債権が含まれていたことを前提とし,宅地建物取引業法所定の制限を超える報酬約定が無効であることを理由として,原審のした相殺の抗弁に対する判断に違法があるというが,所論仲介人報酬債権が自働債権となった右三○○万円の債権の旧債権に含まれていないことは,原判決の判文に照らして明らかであるから,所論は前提を欠くものであり,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用できない。
同第三点について
 原審の確定した事実関係のもとにおいては,上告人が被上告人Pに対し五○○万円を寄託した行為は,民法六六六条所定の寄託に該当するものと解するのが相当であり,原審もまたその趣旨を判示したものと解されるから,利息の約定についてその立証がない旨の判断を示して利息金請求部分を棄却した原判決に所論の違法はない。論旨は,採用できない。
 よって,民訴法四〇七条,三九六条,三八四条,九五条,八九条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官戸田 弘,裁判官団藤重光 藤崎萬里,同本山 亨,同中村治朗

商行為たる船体保険・質権設定契約に基づき保険者から質権者への保険金と不当利得返還請求権の消滅時効期間(最判平成3年4月26日裁判集民事162号769頁)

商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金に関する不当利得返還請求権の消滅時効期間
       主   文
 原判決中,上告人の本訴請求のうち金一〇九一万一〇五九円及びこれに対する昭和六一年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員請求についての上告人の控訴を棄却した部分を破棄する。
 被上告人は,上告人に対し,金一〇九一万一〇五九円及びこれに対する昭和六一年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 上告人のその余の上告を棄却する。
 訴訟の総費用はこれを一〇分し,その一を上告人の,その余を被上告人の各負担とする。
       理   由
 上告人代理人山道昭彦,同魚野貴美夫,同中田明の上告理由第一について
 原審の適法に確定したところによると,(一)上告人は,昭和五二年六月二八日,訴外有楽商事株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で,同会社所有の本件汽船につき,同会社を被保険者とし,保険金額を七〇〇〇万円とする船体保険契約を締結した,(二)被上告人は,右同日ころ,訴外会社に対する本件汽船の売買残代金債権を担保するため,右保険金請求権に質権を設定し,上告人がこれを異議を留めずに承認した,(三)同年九月一五日右汽船が航行中に沈没して全損となったため,上告人は,同年一二月二八日,質権者である被上告人に対し保険金一〇九一万一〇五九円(以下「本件保険金」という。)を支払った,(四)ところが,右沈没事故は訴外会社の代表取締役徳丸正昭らが保険金騙取の目的で故意に引き起こしたものであることが発覚し,右徳丸らが昭和五九年七月一九日艦船覆没,詐欺の罪で有罪判決を受け,右判決が確定した,というのである。
 原審は,右事実関係の下において,上告人の本件不当利得返還請求権は,商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金が法律上の原因を欠くとされた場合におけるものであり,上告人の有する真実の財産法秩序の回復の利益に対して,被上告人の有する表見的商事法律関係の迅速な終結の利益が優越し,これを保護すべき合理的理由があるから,商行為によって生じた債権に準じ,商法五二二条の類推適用により消滅時効期間を五年と解すべきものとして,右商事消滅時効を援用する被上告人の抗弁を採用し,上告人の本訴請求を棄却すべきものとしている。
 しかし,原審の右判断は是認できない。すなわち,商法五二二条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,本件不当利得返還請求権は,商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金の返還に係るものではあっても,保険者に法定の免責事由があるため支払原因が失われ法律の規定によって発生する債権であり,その支払の原因を欠くことによる法律関係の清算において商事取引関係の迅速な解決という要請を考慮すべき合理的根拠は乏しいから,商行為から生じた債権に準ずるものということはできない。従って,本件不当利得返還請求権の消滅時効期間は,民事上の一般債権として,民法一六七条一項により一〇年と解するのが相当である(最高裁昭和五三年(オ)第一一二九号同五五年一月二四日判決・民集三四巻一号六一頁参照)これと異なる原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるものというべく,右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,この点の違法をいう論旨は理由がある。
 そして,上告人が本件訴えの提起により本件不当利得返還請求権を行使したのは昭和六一年九月四日であって,本件保険金支払の日である昭和五二年一二月二八日から起算して一〇年の時効期間内であることは記録上明らかであり,上告人が本訴において商事消滅時効の適用を争うことは被上告人主張のように禁反言の法理に照らして許されないものではないから,被上告人の消滅時効の抗弁は失当というほかはない。また,前示事実及びその余の原審の適法に確定した事実関係の下においては,現存利益の不存在及び民法七〇七条一項の類推適用をいう被上告人の各抗弁をいずれも失当であるとし,かつ,本件保険金を返還する場合にその受領の日の翌日からの遅延損害金を支払う旨の上告人主張の特約を肯認し難いものとした原審の判断は首肯するに足りる。そうすると,上告人の本訴請求は,被上告人に対し本件保険金一〇九一万一〇五九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年九月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,これを認容すべきものである。従って,原判決中,上告人の本訴請求のうち右の金員請求についての上告人の控訴を棄却した部分を破棄した上,右金員請求を認容することとし,上告人のその余の上告を棄却すべきである。
 よって,その余の論旨に対する判断を省略し,民訴法四〇八条,三九六条,三八六条,九六条,八九条,九二条に従い,裁判官香川保一の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官香川保一の補足意見は,次のとおりである。
 私は,本件不当利得返還請求権の消滅時効に関しては,商法五二二条を類推適用すべきではなく,民法一六七条一項によりその期間を一〇年と解する法廷意見に賛成であるが,商法五二二条の適用範囲に関しては,判例,学説において争いのあるところであることにかんがみ,次のとおり意見を補足することとする。
 同条の適用範囲に関しては,同条所定の「商行為ニ因リテ生シタル債権」のほか,これに準ずる債権についても,同条を適用すべきものとするのが当審の判例であるが,同条所定の当該債権は,およそ多種多様な「商行為」なるものによって生ずれば足り,当事者双方は一方が商人であることを要せず,双方的商行為に限らず,一方的商行為でも足り,また,債権者にとって商行為たると,債務者にとって商行為たるとを問わないのであって,種々の性質,態様のものがあり,その共通的な特質を捉えることは困難であって,かかる債権に準ずる債権の認定基準をそもそも定立することができないように思われる。さらに,同条の立法趣旨とされる商事取引関係の迅速な解決という要請を認定基準としても,その迅速な解決の要請の程度を的確に定めることも困難である。そこに,この「準ずる債権」について判例,学説が区々となっている所以があるものと思料される。本来「商行為ニ因リテ生シタル債権」における「商行為」の内容の多様性から考えて,その多様な債権の消滅時効についてこれを一律に律する同条の立法趣旨については,疑問なしとしないのであって,彼此考量すれば,同条の解釈としては,「商行為ニ因リテ生シタル債権」のみに限定し,「これに準ずるもの」をむしろ同条の適用から除外すべきものとするのが妥当のように思われる。
   最高裁裁判長裁判官木崎良平 裁判官藤島 昭,同香川保一,同中島敏次郎

 継続的金銭消費貸借取引の基本契約が過払金の新債務への充当合意を含む場合の返還請求権の消滅時効の起算点(最判平成21年1月22日民集63巻1号247頁)

継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人山口正徳の上告受理申立て理由について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。
 上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 貸主である上告人と借主である被上告人は,1個の基本契約に基づき,第1審判決別紙「法定金利計算書⑧」の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,昭和57年8月10日から平成17年3月2日にかけて,継続的に借入れと返済を繰り返す金銭消費貸借取引を行った。
 上記の借入れは,借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行われ,また,上記の返済は,借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して毎月行われるものであった。
 上記基本契約は,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 3 このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)を行使することは通常想定されていないものというべきである。従って,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
 借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 従って,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。
 4 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件において前記特段の事情があったことはうかがわれず,上告人と被上告人の間において継続的な金銭消費貸借取引がされていたのは昭和57年8月10日から平成17年3月2日までであったというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたことが明らかであり,上記消滅時効は完成していない。
 以上によれば,原審の判断は結論において是認できる。論旨は採用できない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官泉 徳治,裁判官甲斐中辰夫,同涌井紀夫,同宮川光治,同櫻井龍子

 利息の天引きと貸金業法43条1項のみなし弁済(最判平成16年2月20日民集58巻2号475頁)

1 利息の天引きと貸金業の規制等に関する法律43条1項に規定するみなし弁済
2 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に該当するための要件
3 貸金業者から債務者に対して弁済の直後に貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項を記載した書面の交付がされたものとみることができないとされた事例
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人及川智志外102名の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成7年5月19日,上告人が被上告人から手形割引,金銭消費貸借等の方法により継続的に信用供与を受けるための基本的事項について合意した(以下,この合意を「本件基本契約」という。)。上告人は,被上告人に対し,本件基本契約の合意内容を記載した「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」を差し入れ,その後,被上告人からの借入金の増額に伴い,5回にわたり,上記書面とほぼ同一内容の書面を作成し,提出した。被上告人は,これらの書面の提出を受ける都度,上告人に対し,その写し(以下「本件各承諾書写し」という。)を交付した。
 (2) 本件基本契約に基づき,被上告人は,上告人に対し,それぞれ,平成7年5月19日から同11年8月13日にかけての原判決別紙取引1から30までの計算表の「契約日」欄記載の各年月日に,「貸付金額」欄記載の各金銭を貸し付けたが,元本の支払方法は一括払,弁済期日は「弁済期日」欄記載の日,利率は日歩8銭とし,同表の各番号1の「支払金額」欄記載の各金銭を「利息始期」欄記載の日から「利息終期」欄記載の日までの利息及び手数料として天引きした。その後,被上告人と上告人は,平成12年2月4日,原判決別紙取引1,3及び14の計算表の各貸付けを同取引31の計算表の貸付けとし,同取引21,23及び27の計算表の各貸付けを同取引32の計算表の貸付けとする準消費貸借契約を締結した(以下,これらの金銭消費貸借及び準消費貸借取引に係る原判決別紙取引1から32までの計算表の各貸付けを,それぞれ「取引1の貸付け」,「取引2の貸付け」などといい,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 被上告人は,上告人に対し,① 取引1から20まで及び取引22の各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「借用証書」とほぼ同一内容が記載された「お客様控え」と題する各借用証書控え(以下「本件各借用証書控え」という。)を,② 取引21及び取引23から29までの各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「債務弁済契約証書」の写し(以下「本件各債務弁済契約証書写し」という。)を,③ 取引30の貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた「金銭消費貸借契約証書」の写し(以下「本件金銭消費貸借契約証書写し」という。)を,それぞれ交付した。
 なお,本件各貸付けのうちの幾つかの貸付けについては,当初の元本の返済期日が1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。
 (3) 被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの元本又は利息の返済期日である毎月5日の約10日前である前月の25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各取引明細書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。
 上告人は,被上告人に対し,それぞれ,本件各貸付けの弁済として,原判決別紙取引1から32までの計算表の番号2以下の「支払日」欄記載の各年月日に,「支払金額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。なお,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあった。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の約定利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。従って,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でこれを支払えば,法43条1項の規定の適用対象となる任意の弁済に当たる。
 (2) 被上告人は,上告人に対し,本件各承諾書写しを交付しているほか,取引1から30までの各貸付けに係る金銭消費貸借契約締結の際には,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し又は本件金銭消費貸借契約証書写しを交付している。本件各借用証書控えには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利率(日歩及び実質年率)及び損害金の約定のほか,契約番号,貸付金利息及び諸費用の額,受領金額等が記載されており,また,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利息の約定(先払の旨と日歩,実質年率),損害金の約定のほか,事務手数料の額等が記載されており,これらの書面の交付により,本件各貸付けについては法17条1項の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
 (3) 上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがある。被上告人がその支払を確認するためにはある程度の時間を要すると考えられるほか,予定されている次回の支払期限の前には別途,本件各取引明細書が送付されており,債務者である上告人が次回の支払をするに当たって,具体的に既払金の充当関係やこの支払後の残元本の額等を知ることができたものと認められるから,上記のように支払から20日余り経過した後にその支払についての充当関係が記載された本件各取引明細書が送付された各支払については,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
 4 しかし,原審の上記判断は,いずれも是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 利息制限法2条は,貸主が利息を天引きした場合には,その利息が制限利率以下の利率によるものであっても,現実の受領額を元本として同法1条1項所定の利率で計算した金額を超える場合には,その超過部分を元本の支払に充てたものとみなす旨を定めている。そして,法43条1項の規定が利息制限法1条1項についての特則規定であることは,その文言上から明らかであるけれども,上記の同法2条の規定の趣旨からみて,法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないと解するのが相当である。
 従って,貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解すべきである。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等に鑑みると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 法43条1項の規定の適用要件として,法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)をその相手方に交付しなければならないものとされているが,17条書面には,法17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,法43条1項適用の要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 上告人は,原審において,平成7年5月19日に被上告人との間で本件基本契約を締結した際に,被上告人に対し,根抵当権設定に必要な書類を提出した旨の主張をしており,仮に,この主張事実が認められる場合には,その担保の内容及び提出を受けた書面の内容を17条書面に記載しなければならず(平成12年法律第112号による改正前の法17条1項8号,平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号ハ,ヌ),これが記載されていないときには,法17条1項所定の事項の一部についての記載がされていないこととなる。ところが,原審は,上記主張事実についての認定判断をしないで,本件各承諾書写し,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しの交付により,本件各貸付けにつき法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があったと判断したものであって,原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (3) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,同項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
 本件各弁済は銀行振込みの方法によってされているが,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日判決・民集53巻1号98頁参照)。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することを義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである。
 前記のとおり,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあるが,このような,支払がされてから20日余り経過した後にされた本件各取引明細書の交付をもって,弁済の直後に18条書面の交付がされたものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件において,その支払について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。これと異なる原審の前記3(3)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官滝井繁男の補足意見(略)があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである(略)。

   最高裁裁判長裁判官滝井繁男,裁判官福田 博,同北川弘治,同亀山継夫

 債務者が貸金業者からの貸金業法18条1項書面で振込用紙と一体となったものを利用して貸金業者の銀行口座へ利息支払をした場合と同項所定の要件の具備(最判平成16年2月20日民集58巻2号380頁)

債務者が貸金業者から交付された貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をした場合と同項所定の要件の具備
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人樋川恒一,同濱本光一,同竹之内洋人,同新川生馬,同森越壮史郎,同八十島保の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 株式会社甲(以下「甲」という。)は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成5年11月26日,金銭消費貸借契約等継続取引に関する基本取引約定を締結し,甲の代表取締役である上告人は,同日,この約定に基づき甲が被上告人に対して負担する債務について,根保証元本限度額を200万円,保証期間を同10年11月25日までとする連帯保証をした。甲と被上告人は,平成7年9月27日,上記基本取引約定を更新したが,その際,上告人と被上告人は,上記連帯保証に係る契約について,根保証元本限度額を400万円,保証期間を同12年9月26日までとする旨改定をした。
 (2) 上記基本取引約定に基づき,被上告人は,甲に対し,① 平成5年11月26日に返済期日を同6年1月5日として200万円を,② 同7年9月27日に返済期日を同年11月5日として200万円を,いずれも日歩8銭の利率で貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」という。)。
 本件各貸付けの元本の返済期日は,1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。
 (3) 被上告人は,毎月,甲に対し,本件各貸付けの元本の返済期日である毎月5日の約10日前である前月25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各請求書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。また,本件各請求書には,充当関係が不明な一部の書面を除き,利息等として支払われる金額の充当関係等の法18条1項に掲げる事項の記載がされていた。
 上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,甲名義で,原判決別紙計算書の番号2から22まで及び24から77までの各「取引年月日」欄記載の各年月日に各「返済額(円)」欄記載の金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じており,この過払金は,実質的には上告人が負担したものであると主張して,不当利得返還請求権に基づき,また,仮に,甲による返済と認められる部分があるとすれば,その部分については,主債務者である甲に対する求償債権を保全するため,甲が被上告人に対して有する不当利得返還請求権を上告人が代位行使すると主張して,債権者代位権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 貸金業者が,法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を返済期日の前に債務者に交付し,しかもこの書面が貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となって作成されているような場合には,債務者が上記書面を用いてそこに記載された弁済額と一致する金額を銀行振込みの方式により払い込む以上,債務者は,振込手続をするのと同時に又はその直後の時期に,弁済額の具体的な充当の内訳等を含む同項所定の事項を漏れなく認識しているものとみることができ,また,振込手続を完了して振込金受取書の交付を受けた時点において,上記書面の交付は同項所定の要件を満たすことになるとみることができる。従って,その振込み後に,貸金業者が債務者に対し,更に18条書面の交付をしなくとも,上記書面の交付により同項所定の要件を満たすことになる。
 本件においては,充当関係が不明な一部の書面を除き,本件各貸付けの返済期日の約10日前ごとに,被上告人から甲に対し,法18条1項所定の事項の記載がある本件各請求書が交付されているから,上告人が本件各請求書と一体となった振込用紙を利用して,本件各請求書に記載された弁済額と一致する金額を被上告人に対して振り込んだ支払については,同項所定の要件を満たすものというべきである。
 従って,本件各貸付けに係る利息の約定に基づき,上告人によってされた利息の制限額を超える金銭部分の任意の支払は,法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等に鑑みると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 また,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日判決・民集53巻1号98頁参照)。
 そして,18条書面は,弁済を受けた都度,直ちに交付することが義務付けられていることに照らすと,貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをもって法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。従って,本件各請求書のように,その返済期日の弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものが返済期日前に債務者に交付され,債務者がこの書面を利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があって法43条1項の規定の適用要件を満たすものということはできないし,同項の適用を肯定すべき特段の事情があるということもできない。
 そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官亀山継夫,裁判官福田 博,同北川弘治,同滝井繁男

貸金業法43条1項の「債務者が利息として任意に支払った」及び同条3項の「賠償として任意に支払った」の意義(最判平成2年1月22日民集44巻1号332頁)

貸金業の規制等に関する法律四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」の意義
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人井尻潔の上告理由一,二,三及び五について
 貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)は,貸金業者の事業に対し必要な規制を行うことにより,その業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図るための措置として,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結したときは,貸付けの利率,賠償額の予定に関する定めの内容等,法一七条一項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面(以下「契約書面」という。)をその相手方に交付しなければならないものとし(法一七条一項),さらに,その債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額等,法一八条一項各号に掲げる事項を記載した書面(以下「受取証書」という。)を当該弁済をした者に交付しなければならないものとして(法一八条一項),債務者が貸付けに係る契約の内容又はこれに基づく支払の充当関係が不明確であることなどによって不利益を被ることがないように貸金業者に契約書面及び受取証書の交付を義務づける反面,その義務が遵守された場合には,債務者が利息又は賠償として任意に支払った金銭の額が利息制限法一条一項又は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えるときにおいても,これを有効な利息又は賠償金の債務の弁済とみなすこととしている(法四三条一項,三項)。以上のような法の趣旨に鑑みれば,債務者が貸金業者に対してした金銭の支払が法四三条一項又は三項によって有効な利息又は賠償金の債務の弁済とみなされるには,契約書面及び受取証書の記載が法の趣旨に合致するものでなければならないことはいうまでもないが,法四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法一条一項又は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,所論の点に関する原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り,右事実関係の下においては,上告人が貸金業者である被上告人甲に対してした金銭の支払は,上告人が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってされたことが明らかであるから,これを法四三条一項又は三項にいう債務者が利息又は賠償として任意に支払ったものとした原審の判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく,論旨は,畢竟,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用できない。
 同四について
 所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,是認し得ないものではなく,その過程に所論の違法はない。論旨は,畢竟,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用できない。
 同六について
 記録によって認められる本件訴訟の経緯に照らすと,原審が所論の措置をとらなかったことに違法はない。論旨は,採用できない。
 よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官藤島昭,裁判官島谷六郎,同香川保一,同奧野久之,同草場良八

 債務者が利限法超過約定利息の支払を遅滞すれば当然に期限の利益を喪失する特約(最判平成18年1月19日裁判集民事219号31頁)

1 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
2 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約のもとでの制限超過部分の支払の任意性の有無
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を広島高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人板根富規,同青木貴央の上告受理申立て理由第2の3について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)被上告人は,平成7年5月23日,甲に対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「旧貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,甲の旧貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア 利息 年29.80%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年39.80%(年365日の日割計算)
 ウ 返済方法 平成7年6月から平成12年5月まで毎月27日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約 甲は,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
 (3)被上告人は,旧貸付けに係る契約を締結した際に,甲に対し,平成7年5月23日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
 上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「旧契約書等」という。)には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29.80%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払を遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年39.80%とする約定が記載されていた。
 (4)甲は,被上告人に対し,旧貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(2)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し,被上告人は,甲に対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。
 (5)被上告人は,平成10年2月20日,甲に対し,340万円を,返済方法を平成10年3月から平成15年2月まで毎月27日に60回にわたって元金5万6000円ずつ(最終回は9万6000円)を経過利息と共に支払うものとするほかは,本件期限の利益喪失特約を含めて旧貸付けと同じ約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,甲の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 (6)被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,甲に対し,平成10年2月20日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
 上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「本件契約書等」という。)には,旧契約書等に記載された前記(3)の約定と同旨の約定が記載されていた。
 (7)甲は,平成10年2月20日,被上告人から交付を受けた本件貸付金340万円の中から,被上告人に対し,前記(4)の各弁済のうち利息制限法1条1項所定の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払った部分につき法43条1項の規定の適用があることを前提に計算された旧貸付けに係る残債務の弁済として,合計141万2640円を支払った。被上告人は,この支払によって,旧貸付けに係る債務が完済されたものと取り扱っている。
 (8)甲は,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(1)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し(以下,これらの弁済と前記(4),(7)記載の各弁済とを併せて「本件各弁済」と総称する。),被上告人は,甲に対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。
 (9)甲は,平成10年9月28日に支払うべき元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失した。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分について,法43条1項の規定が適用されるから,有効な利息の債務の弁済とみなされると主張して,上告人に対し,連帯保証債務履行請求権に基づき,本件貸付けの残元本233万5954円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分については法43条1項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 期限の利益喪失特約は,債務者に対して約定どおりの債務の履行を促す効果を有するものであるが,同特約が公序良俗に反するなど著しく不当なものでない限り,同特約の存在とその適用による不利益の警告は,債務者に対する違法不当な圧力とはいえず,弁済の任意性に影響を及ぼさないというべきである。本件期限の利益喪失特約は,公序良俗に反するなど著しく不当なものには至らないから,その存在を理由に本件各弁済の任意性を否定することはできない。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分(以下「制限超過部分」という。)につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めたものである。このような法43条1項の規定の趣旨にかんがみると,同項の適用に当たっては,制限超過部分の支払の任意性の要件は,明確に認められることが必要である。法21条1項に規定された行為は,貸金業者として最低限度行ってはならない態様の取立て行為を罰則により禁止したものであって,貸金業者が同項に違反していないからといって,それだけで直ちに債務者がした制限超過部分の支払の任意性が認められるものではない。
 そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)が,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。そして,債務者が制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったか否かは,金銭消費貸借契約証書や貸付契約説明書の文言,契約締結及び督促の際の貸金業者の債務者に対する説明内容などの具体的事情に基づき,総合的に判断されるべきである。
 (2)ところで,本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,甲は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。しかし,このような結果は,甲に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,甲が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,甲は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,旧契約書等及び本件契約書等における本件期限の利益喪失特約の文言は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 従って,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,甲が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

    最高裁裁判長裁判官甲斐中辰夫,裁判官横尾和子,同泉 徳治,同島田仁郎,同才口千晴

 日掛け貸付につき借用証書の記載が貸金業法17条1項書面の記載事項「各回の返済期日」の記載として正確性・明確性を欠くとされた事例(最判平成18年1月24日裁判集民事219号243頁)

1 日賦貸金業者の貸付について借用証書の記載内容が貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面の記載事項である「各回の返済期日」の記載として正確性または明確性を欠き借主に交付された上記借用証書の写しは上記書面に該当しないとされた事例
2 日賦貸金業者の貸付について貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定が適用されるために平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則9項所定の各要件が実際の貸付において現実に充足されていることの要否
3 日賦貸金業者の貸付について平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則9項2号所定の要件が実際の貸付において現実に充足されているとは言えず貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定が適用されないとされた事例
4 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
5 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約のもとでの制限超過部分の支払の任意性の有無
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
       理   由
第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者であり,平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則(以下「出資法附則」という。)9項所定の業務の方法による貸金業のみを行う日賦貸金業者である。
 (2)被上告人は,利息年109.5%,支払期日に約定の元本及び利息の支払を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を失い,直ちに残元本全部と利息,損害金を支払うとの条項(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)を含む約定で,①~⑩のとおり,上告人X1に金銭を貸し付け,また,⑪~⑯のとおり,同上告人が代表者を務める上告人有限会社X2(以下「上告会社」という。)に金銭を貸し付けた(以下,これらの貸付けを,番号に従い,「本件①貸付け」などといい,「本件各貸付け」と総称する。)。本件②貸付けは,本件①貸付けの約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに契約が締結されたものであり,また,本件③~⑩貸付けについても,同様に,その直前の貸付けの約定の返済期間の途中で,貸増しが行われたものである。本件⑪~⑯貸付けについても,本件①~⑩貸付けと同じ方法で貸付けが行われたものである。
 ① 平成08年07月01日  50万円
 ② 平成08年10月24日  50万円
 ③ 平成09年01月29日  50万円
 ④ 平成09年05月28日  50万円
 ⑤ 平成09年09月03日  50万円
 ⑥ 平成09年12月01日  50万円
 ⑦ 平成10年02月28日  50万円
 ⑧ 平成10年06月03日  50万円
 ⑨ 平成10年09月02日  50万円
 ⑩ 平成10年12月24日  50万円
 ⑪ 平成11年05月31日  50万円
 ⑫ 平成11年09月14日  50万円
 ⑬ 平成11年12月29日  50万円
 ⑭ 平成12年04月07日  60万円
 ⑮ 平成12年06月26日  60万円
 ⑯ 平成12年09月22日  60万円
 (3)被上告人は,上告人らに対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しをそれぞれ交付したところ,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付けの残元本の金額との合計金額が記載されていた。
 (4)また,本件①~⑪貸付けにおいては,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日,年末年始休暇(毎年12月31日から翌年1月5日までの6日間)及び夏期休暇(毎年8月13日から同月17日までの5日間)には,集金をしない旨の合意があったにもかかわらず(以下,集金をしない旨の合意のある日のことを「集金休日」という。),本件①~⑦貸付けの各借用証書には,集金休日の記載はなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書には,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日及び「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた。
 (5)被上告人は,上告人X1から,平成10年12月24日,本件⑨貸付けの弁済として,3257円を受領したにもかかわらず,被上告人が同上告人に交付した同日付けの領収書には,受領金額が2303円と記載されていた。
 (6)本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったものである。
 (7)本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められていたところ,実際の貸付けにおいては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったが,返済のされなかった日を除けば,返済期間の全日数の100分の70未満であった。
 (8)上告人X1は,被上告人に対し,本件①~⑩貸付けの弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払い,また,上告会社は,被上告人に対し,本件⑪~⑯貸付けの弁済として,同判決別紙3の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,本件各弁済のとおり支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)等を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求する事案である。
 3 原審は,本件各弁済には貸金業法43条1項の規定が適用されるから,本件各貸付けの債務は残存しており,被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
第2 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の2の点,第3の5及び6のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点,第3の10の点について
 1 原審は,次のとおり判断するなどして,本件各貸付けについては,貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面が交付されたものといえるとした。
 (1)本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書の「契約手渡金額」欄には,各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されているが,借用証書には,別途,従前の貸付けの残高が記載されているのであるから,これらの借用証書であっても,貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」の記載要件を充足する。
 (2)本件⑪貸付けの借用証書には,夏期休暇の期間を集金休日とする旨の記載が欠けているが,上記期間を集金休日とすることについては,被上告人があらかじめ上告人X1に連絡をしており,また,同上告人も,かかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったことなどに照らすと,上記期間は,上記借用証書において集金休日とされている「その他取引をなさない慣習のある休日」に該当するものであるから,この借用証書であっても,貸金業法17条1項所定の要件を具備した書面といえる。本件①~⑩貸付けの借用証書についても同様のことがいえる。
 (3)被上告人が平成10年12月24日に本件⑨貸付けの弁済を受けた際に上告人X1に交付した同日付け領収書の受領金額の記載は誤りであるが,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記は上告人X1に不利益を被らせるものでもなかったのであるから,この領収書であっても,貸金業法18条1項所定の要件を具備した書面といえる。
 2 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,制限超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める貸金業法の趣旨,目的と,同法に上記業務規制に違反した場合の罰則が設けられていること等に鑑みると,同法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 貸金業法43条1項の規定の適用要件として,貸金業者は同法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないものとされており,また,貸金業者は同法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を弁済をした者に交付しなければならないものとされているが,17条書面及び18条書面には同法17条1項及び18条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,それらの一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日判決・民集58巻2号475頁参照)。
 そして,貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定め,また,同法18条1項が,貸金業者につき,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。従って,17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 (2)17条書面には「貸付けの金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項3号),前記事実関係によれば,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (3)17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チ),前記事実関係によれば,本件①~⑦貸付けの各借用証書においては,集金休日の記載がされていなかったというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書においては,「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は明確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件①~⑪貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,これらの借用証書に記載されていない期日を集金休日とすることについて,被上告人があらかじめ上告人らに連絡しており,上告人らがかかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (4)18条書面には「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を記載しなければならないが(貸金業法18条1項4号),前記事実関係によれば,被上告人が本件⑨貸付けの弁済を平成10年12月24日に受けた際に上告人X1に対して交付した同日付けの領収書においては,受領金額の記載が誤っていたというのであるから,この領収書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,この領収書の交付をもって,本件⑨貸付けの平成10年12月24日の弁済について18条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記が上告人X1に不利益を被らせるものでなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 3 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,原判決は破棄を免れない。
第3 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点について
 後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失条項のうち,上告人らが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 しかし,前記のとおり,貸金業法17条1項が,貸金業者に17条書面の交付義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあるのであるから,同項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,このことは,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合であっても左右されるものではないと解される。
 そうすると,上告人らと被上告人が合意した期限の利益喪失条項の内容を正確に記載している本件各貸付けの各借用証書は,貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(ただし,本件①~⑭貸付けについては,同号リ(平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前のもの))所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
 論旨は採用できない。
第4 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち本件各弁済には任意性がないと主張する点について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 本件期限の利益喪失条項の存在により,上告人らが制限超過利息の支払を強制されているとは解されないし,「任意に」支払ったとは,本件各貸付けについての利息に充当されることを認識した上で,支払うか否かを自己の意思に基づいて判断することが可能なことをいうものであり,支払うこととした動機が上記条項の適用を免れるためであるか否かは,支払の任意性を左右するものではないから,本件各弁済は,任意にされたものといえる。
 2 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解されるものの(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日判決・民集44巻1号332頁参照),前記のとおり,同項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであるから,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 (2)本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば,上告人らは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが,このような結果は,上告人らに対し,期限の利益を喪失する不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができない。本件期限の利益喪失条項のうち,制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失条項は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが,この条項の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 従って,本件期限の利益喪失条項の下で,債務者が,利息として,制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人らが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
第5 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の4及び7の各点について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 (1)出資法附則9項2号所定の要件を具備するか否かは,契約締結時の契約内容によって判断されるべきであると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたのであるから,上記要件を具備する。
 (2)出資法附則9項3号所定の要件については,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,具備すると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったのであるから,上記要件を具備する。
 2 しかし,原審の上記判断のうち,1の(2)の部分は是認できるが,1の(1)の部分は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)出資法附則8項が,日賦貸金業者について出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2,3項の特例を設け,一般の貸金業者よりも著しく高い利息について貸金業法43条1項の規定が適用されるものとした趣旨は,日賦貸金業者が,小規模の物品販売業者等の資金需要にこたえるものであり,100日以上の返済期間,毎日のように貸付けの相手方の営業所又は住所において集金する方法により少額の金銭を取り立てるという出資法附則9項所定の業務の方法による貸金業のみを行うものであるため,債権額に比して債権回収に必要な労力と費用が現実に極めて大きなものになるという格別の事情があるからであると考えられる。そうすると,日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要があると解するのが相当である。
 (2)前記事実関係によれば,本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったというのである。そうすると,本件②,④~⑧,⑭,⑮貸付けについては,契約締結時の契約内容においては出資法附則9項2号所定の要件が充足されていたが,実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから,貸金業法43条1項の規定の適用はない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
 (3)これに対し,前記事実関係によれば,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められており,実際の貸付けにおいても,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったというのである。そして,出資法附則9項3号の文理に照らすと,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,実際の貸付けにおいて同号所定の要件が現実に充足されているといえると解すべきである。そうすると,本件各貸付けについては,契約締結時の契約内容において出資法附則9項3号所定の要件が充足されていることはもとより,実際の貸付けにおいても上記要件が現実に充足されていたといえるのであるから,この点において貸金業法43条1項の規定の適用が否定されるものではない。これと同旨の原審の判断は是認できる。この点に関する論旨は採用できない。
第6 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,判示第4につき裁判官上田豊三(略)の意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
  最高裁裁判長裁判官上田豊三,裁判官濱田邦夫,同藤田宙靖,同堀籠幸男

 貸金業法17条1項書面に所定事項の確定的な記載が不可能な場合と要記載事項(最判平成17年12月15日民集59巻10号2899頁)

1 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項
2 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告人の上告受理申立て理由第一について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1)上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)上告人は,平成3年4月13日,被上告人との間で,次の内容の金銭消費貸借基本契約を締結し,その契約書を被上告人に交付した(以下,この契約を「本件基本契約」といい,この契約書を「本件基本契約書」という。)。
 ア 借入限度額 20万円
 借主は,借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができる。
 イ 借入利率 年43.8%
 ウ 返済方法 毎月15日限り元金1万5000円以上と支払日までの経過利息を支払う。
 (3)上告人は,平成3年4月13日から平成14年5月20日までの間,被上告人に対し,本件基本契約に基づき,第1審判決別紙計算書の「年月日」欄記載の日に,「借入額」欄記載のとおり金銭を貸し付け(以下,これらの貸付けを併せて「本件各貸付け」という。),被上告人から,同計算書の「年月日」欄記載の日に,「返済額」欄記載のとおり弁済を受けた(以下,これらの弁済を併せて「本件各弁済」という。)。
 (4)上告人は,本件各貸付けの都度,被上告人に対し,営業店の窓口における貸付けの場合には「領収書兼取引確認書」又は「残高確認書」と題する書面を,現金自動入出機(甲T参)を利用した貸付けの場合には「領収書兼ご利用明細」と題する書面(以下,この書面と上記「領収書兼取引確認書」又は「残高確認書」と題する書面を併せて「本件各確認書等」という。)を,それぞれ交付した。
 (5)本件基本契約書と本件各確認書等のいずれにも,法17条1項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」の記載はない。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った部分を元本に充当すると過払金を生じていると主張して,不当利得返還請求権に基づいて,過払金の返還等を求める事案である。
 これに対し,上告人は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結したときは,法17条1項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないとされているところ,本件基本契約は,返済方法について返済額の決定を被上告人にゆだねる内容となっているため,上告人において法17条1項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や施行規則13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」を記載することは不可能であるから,上告人が被上告人に対して法17条1項所定のその余の事項を記載した書面を交付していれば,17条書面を交付したことになるのであって,本件各弁済は法43条1項の規定の適用要件を満たしており,同項により,利息制限法1条1項所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った利息部分は有効な利息債務の弁済とみなされ,元本に充当されることにはならないから,過払金は生じていないと主張して,被上告人の上記主張を争っている。
 3(1)貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等に鑑みると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであり,17条書面の交付の要件についても,厳格に解釈しなければならず,17条書面として交付された書面に法17条1項所定の事項のうちで記載されていない事項があるときは,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日判決・民集58巻2号475頁参照)。そして,仮に,当該貸付けに係る契約の性質上,法17条1項所定の事項のうち,確定的な記載が不可能な事項があったとしても,貸金業者は,その事項の記載義務を免れるものではなく,その場合には,当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり,同義務を尽くせば,当該事項を記載したものと解すべきであって,17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠く。
 (2)前記事実関係によれば,本件各貸付けは,本件基本契約に基づいて行われたものであるが,本件基本契約の内容は,① 被上告人は,借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができる,② 被上告人は,元金について,返済すべき金額の最低額(以下「最低返済額」という。)を超える金額であれば,返済額を自由に決めることができる,というものであることが明らかである。
 すなわち,本件各貸付けは,本件基本契約の下で,借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたものであり,その返済の方式は,追加貸付けがあっても,当該追加貸付けについての分割払の約束がされるわけではなく,当該追加貸付けを含めたその時点での本件基本契約に基づく全貸付けの残元利金(以下,単に「残元利金」という。)について,毎月15日の返済期日に最低返済額及び経過利息を支払えば足りるとするものであり,いわゆるリボルビング方式の一つである。従って,個々の貸付けについての「返済期間及び返済回数」や各回の「返済金額」(以下,「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間,返済金額等」という。)は定められないし,残元利金についての返済期間,返済金額等は,被上告人が,今後,追加借入れをするかどうか,毎月15日の返済期日に幾ら返済するかによって変動することになり,上告人が,個々の貸付けの際に,当該貸付けやその時点での残元利金について,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載して被上告人に交付することは不可能であったといわざるを得ない。
 (3)しかし,本件各貸付けについて,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって,上告人は,返済期間,返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。そして,17条書面に最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるものと解され,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準じた効果があるということができる。
 前記事実関係によれば,本件基本契約書の記載と本件各確認書等の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載があると解することはできない。従って,本件各貸付けについては,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠く。
 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認できる。論旨は,採用できない。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官島田仁郎,裁判官横尾和子,同甲斐中辰夫,同泉 徳治,同才口千晴

 貸金の元利金の分割返済期日が「毎月X日」と定められた場合にX日が日曜・休日のときの返済期日(最判平成11年3月11日民集53巻3号451頁)

一 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合にX日が日曜日その他の一般の休日に当たるときの返済期日の解釈
二 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合に貸金業の規制等に関する法律一七条に規程する書面に記載すべき「各回の返済期日」
       主   文
 原判決中,被上告人aの請求に関する部分及び同bの請求に関する上告人敗訴の部分を破棄する。
 前項の各部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人坂下宗生,同谷口玲爾,同坂本秀徳の上告理由第一について
 一 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 1 上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)所定の登録を受けた貸金業者である。
 2 上告人は,平成四年九月三〇日,γに対し,一五〇万円を,利息及び遅延損害金の利率を年三九・八〇%とし,平成四年一〇月から同九年九月まで毎月二五日に六〇回にわたって元金二万五〇〇〇円ずつを経過利息と共に返済するとの約定で貸し渡し,被上告人βは,同日,上告人に対し,右消費貸借契約に係るγの債務を連帯保証する旨を約した。
 3 上告人は,平成五年六月四日,γに対し,一〇〇万円を,利息及び遅延損害金の利率を年三九・八〇%とし,平成五年七月から同一〇年六月まで毎月三日に六〇回にわたって元金一万六〇〇〇円ずつ(最終回は五万六〇〇〇円)を経過利息と共に返済するとの約定で貸し渡し,被上告人αは,同日,上告人に対し,右消費貸借契約に係るγの債務を連帯保証する旨を約した。
 4 上告人は,右各消費貸借契約及び連帯保証契約の締結に際して,γ及び被上告人らに対し,それぞれ貸付契約説明書及び償還表と題する書面を交付した。右各貸付契約説明書には,右2の返済期日について「毎月二五日」,右3の返済期日について「毎月三日」と記載されていたが,右期日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いについての記載はなかった。
 5 γ及び被上告人らは,上告人に対し,原判決の別紙充当計算表1及び2のとおり,元本並びに約定の利率による利息及び遅延損害金を支払った。これを利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,被上告人αの連帯保証に係る消費貸借契約については六六万一一二〇円,被上告人βの連帯保証に係る消費貸借契約については五二万八八六一円の過払い(以下「本件過払い」という。)が生じていることになる。
 二 本件は,被上告人らが,上告人に対し,本件過払いが上告人の不当利得であるとしてその返還を求める事件である(被上告人αの請求金額は六五万五一三四円,被上告人βの請求金額は九一万八六〇五円)。上告人は,法一七条一,二項及び一八条一項(いずれも平成九年法律第一〇二号による改正前のもの。以下同じ。)に規定するところに従い,γ及び被上告人らに対し,法一七条一項各号及び二項に掲げる事項について契約の内容を明らかにする書面(以下「一七条書面」という。)並びに法一八条一項各号に掲げる事項を記載した書面(以下「受取証書」という。)を交付しており,法四三条所定の要件が満たされているから,本件過払いは有効な利息又は遅延損害金の債務の弁済とみなされると主張している。
 原審は,右事実関係の下において,(一)返済期日として定められた日が休日に当たる場合に返済期日をその前日とするのか翌日とするのかは当該契約条項の解釈にゆだねられ,書面にその旨の記載がない場合に当然にそのいずれかに定まるものではない,(二)上告人が交付した前記貸付契約説明書及び償還表は,その記載自体において返済期日が休日に当たる場合の取扱いが不明確であるから,「各回の返済期日及び返済金額」(法一七条一項八号,二項,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和五八年大蔵省令第四〇号)一三条一項一号チ)の記載としては不十分である,(三)従って,法四三条の規定によりみなし弁済の効果を生ずるための要件である一七条書面の交付がされたとはいえないから,受取証書の交付の有無について判断するまでもなく,本件過払いを有効な利息又は遅延損害金の債務の弁済とみなすことはできないとして,本件過払いの限度で(被上告人αについては前記請求金額の限度で)被上告人らの請求を認容した。
 三 しかし,原審の右判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 1 毎月一回ずつの分割払によって元利金を返済する約定の消費貸借契約において,返済期日を単に「毎月X日」と定めただけで,その日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いが明定されなかった場合には,その地方においては別異の慣習があるなどの特段の事情がない限り,契約当事者間にX日が右休日であるときはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認されるものというべきである。現代社会においてはそれが一般的な取引の慣習になっていると考えられるからである(民法一四二条参照)。
 そして,右黙示の合意があったと認められる場合においては,一七条書面によって明らかにすべき「各回の返済期日」としては,明示の約定によって定められた「毎月X日」という日が記載されていれば足りると解するのが相当である。けだし,契約当事者間に右黙示の合意がある場合には,一七条書面にX日が右休日に当たる場合の取扱いについて記載されていなくても,契約の内容が不明確であることにより債務者や保証人が不利益を被るとはいえず,法が一七条書面に「各回の返済期日」を記載することを要求した趣旨に反しないからである。
 2 これを本件について見ると,上告人がc及び被上告人らに交付した各貸付契約説明書には,返済期日として「毎月二五日」又は「毎月三日」と記載されるにとどまり,これらの日が右休日に当たる場合の取扱いについての記載はなかったのであるが,前記の推認を否定すべき特段の事情があったことの主張立証はないから,上告人とc及び被上告人らとの間に二五日又は三日が右休日に当たる場合にはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認されるものというべきである。したがって,右各貸付契約説明書は,「各回の返済期日」の記載に欠けるところはなく,法一七条の要件を満たすものということができる。
 四 そうすると,原判決中,これと異なる判断の下に,一七条書面が交付されたとはいえないことを理由に法四三条の適用を否定し,被上告人らの請求の全部又は一部を認容すべきものとした部分には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決中の右部分は破棄を免れない。そして,右部分について,受取証書の交付の有無について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官遠藤光男,裁判官小野幹雄,同井嶋一友,同藤井正雄,同大出峻郎

 が貸金業者の口座への払込みによる利息場支払と貸金業法43条1項のみなし弁済と18条1項書面の交付(最判平成11年1月21日民集53巻1号98頁)

債務者の利息の支払が貸金業者の預金等の口座に対する払込みによってされた場合における貸金業の規制等に関する法律43条1項によるみなし弁済と同法18条1項に規定する書面の交付の要否
       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人松原徳満の上告理由第一について
 貸金業者との間の金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息制限法一条一項に定める制限額を超える場合において,右超過部分の支払が貸金業の規制等に関する法律四三条一項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,右の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされたときであっても特段の事情のない限り,貸金業者は,右の払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,同法一八条一項に規定する書面(以下「受取証書」という。)を債務者に交付しなければならないと解するのが相当である。けだし,同法四三条一項二号は,受取証書の交付について何らの除外事由を設けておらず,また,債務者は,受取証書の交付を受けることによって,払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができるからである。右と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用できない。
 同第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認ができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず,採用できない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
        最高裁裁判長裁判官藤井正雄,裁判官小野幹雄,同遠藤光男,同井嶋一友,同大出峻郎

 貸金業者から債務者に弁済直後貸金業法18条1項書面の交付がされたとはいえないとされた事例(最判平成16年7月9日裁判集民事214号709頁)

貸金業者から債務者に対して弁済の直後に貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項を記載した書面の交付がされたものとみることができないとされた事例
       主   文
 原判決中上告人らの敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人和田聖仁の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 写真の現像等を業とする株式会社である上告人株式会社P1は,平成9年6月23日,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,「約定書(基本約定)」を取り交わし,上告人P2及び上告人P3は,同年8月25日,被上告人に対し,この約定に基づき上告人株式会社P1が被上告人に対して負担する債務について,保証債務極度額を600万円,保証期間を平成14年6月22日までとする連帯保証をした。
 上告人株式会社P1及び上告人P2は,平成11年5月18日,被上告人との間で,上記「約定書(基本約定)」と同旨の「基本取引約定書兼根保証契約書」(以下,「約定書(基本約定)」又は「基本取引約定書兼根保証契約書」による取引約定を「本件基本取引約定」という。)を取り交わした。
 (2) 被上告人は,本件基本取引約定に基づき,上告人株式会社P1に対し,平成9年6月23日から平成12年2月14日までの間,第1審判決別紙計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を貸し付けたが,その際,「天引額」欄記載の金額を天引きした上で「交付額」欄記載の金額を交付した(これらの貸付けを同計算書記載の番号に従い,「貸付け1」などという。)。
 上告人株式会社P1は,被上告人に対し,貸付け1から30までについては,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済しており,これらの貸付けは完済になっている。
 (3) また,被上告人は,本件基本取引約定に基づき,上告人株式会社P1に対し,平成12年5月11日から平成13年7月19日までの間,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を利息等を天引きすることなく貸し付けた(これらの貸付けについても,同計算書記載の番号に従い,「貸付け31」などという。)。
 上告人株式会社P1は,被上告人に対し,貸付け31から39までについては,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済したが,貸付け40から42までについては弁済していない。
 (4) 貸付け31から33までについては,手形決済の方法で弁済がされており,被上告人は,上告人株式会社P1から各弁済を受けてから7ないし10日以上後に,領収書(以下「本件各領収書」という。)を上告人株式会社P1に交付している。
 2 本件は,上告人株式会社P1が,被上告人に対し,上記各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求し,被上告人が,上告人株式会社P1並びにその保証人である上告人P2及び上告人P3に対し,貸付け40から42までの貸金の返還を請求する事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,上告人株式会社P1の請求を棄却し,被上告人の請求を一部認容した。
 (1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,利息の天引きがされた場合の規定である同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。従って,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でその天引きを承諾したのであれば,法43条1項所定の任意の弁済に当たる。
 利息の天引きがされた貸付け1から30までについては,被上告人が上告人株式会社P1に対して法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)及び法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をいずれも交付した事実が認められ,法43条1項の規定の適用要件を満たすものということができる。
 (2) 利息の天引きがされていない貸付け31から33までについては,被上告人が上告人株式会社P1に対して17条書面を交付しており,かつ,各弁済については,被上告人は,上告人株式会社P1から各弁済を受けた都度,直ちに,18条書面を上告人株式会社P1に対して交付したものということができる。
 従って,上記各弁済については,法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。
 4 しかし,原審の上記判断は,いずれも是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解するのが相当である(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日判決・民集58巻2号475頁参照)。従って,貸付け1から30までについては,法43条1項の規定の適用要件を欠く。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,18条書面をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することが義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである(前掲最高裁平成16年2月20日判決参照)。
 前記のとおり,被上告人は,前記各弁済を受けてから7ないし10日以上後に上告人株式会社P1に対して本件各領収書を交付しているが,これをもって,上記各弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件において,上記各弁済について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。従って,貸付け31から33までについても,法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきである。これと異なる原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,上記の各点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決中上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻す。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官滝井繁男,裁判官福田 博,同北川弘治,同津野 修

 貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務(最判平成17年7月19日民集59巻6号1783頁)

貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務の有無
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人井上元、同中井洋恵の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者である。
(2)被上告人は,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」記載のとおり,平成4年2月26日から平成14年10月10日まで,109回にわたって上告人に金銭を貸し付け,129回にわたって上告人から弁済を受けた。
(3)上記各貸付け(以下「本件各貸付け」という。)の約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超過している。
(4)中井洋恵弁護士は,平成14年10月,上告人から債務整理を依頼され,同年11月1日付け通知書で,被上告人に対し,上告人の代理人となる旨の通知をするとともに,上告人と被上告人との間の全取引の明細が整わないと返済の計画を立てることができず,返済案の提示が遅れる旨付記した上,過去の全取引履歴の開示を要請した。しかし,被上告人は,取引履歴を全く開示しなかった。
(5)中井弁護士は,同月25日,同弁護士の事務所の事務員(以下「事務員」という。)に指示して,債権届を至急提出するよう被上告人に電話連絡をさせた。その際,被上告人の担当者は,和解を前提とする話合いを申し出たが,事務員は,先に取引履歴の開示を求める旨返事をした。
(6)中井弁護士は,同年12月10日及び平成15年1月10日にも,事務員に上記電話連絡と同様の電話連絡をさせ,さらに,同年2月12日付け書面及び同年3月13日付け取引履歴開示請求書により全取引履歴の開示を求めたが,被上告人はこれに応じなかった。
(7)上記取引履歴開示請求書には,井上元弁護士も上告人の代理人になること,同年3月20日までに取引履歴を開示するよう求めることが記載されていたので,被上告人の担当者は,同月14日,井上弁護士に電話をして和解を申し出たが,同弁護士は,早急に取引履歴の開示を求めると言ってこれを断り,同年4月4日の電話で,被上告人に対して更に取引履歴の開示を求めた。これに対して,被上告人の担当者は,「みなし弁済の規定の適用を主張する。和解交渉をさせていただくが,取引履歴の開示はできない。」と答えた。
(8)井上弁護士と被上告人の担当者との間では,同月15日,16日にも電話で同様のやり取りがあり,結局,上告人は,同月18日,本件訴訟を提起した。
(9)本件訴訟は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息について,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求めるとともに,貸金業者である被上告人は,貸金業法等の法令又は契約関係から生ずる信義誠実の原則に基づき取引履歴の開示義務があるのに,合理的な理由なく上告人からの開示要求に応じなかったものであり,そのために上告人の債務整理が遅れ,上告人は精神的に不安定な立場に置かれたとして,不法行為による慰謝料の支払を求めるものであるが,過払金の返還請求については,第1審で認容され,被上告人はこれに対して不服を申し立てなかった。
(10)被上告人は,本件訴訟(第1審)において上告人との間の全取引履歴の開示をした。
2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,上告人の慰謝料請求を棄却すべきものとした。
(1)貸金業法その他の法令上,貸金業者の取引履歴の開示義務を定めた明文規定はない。貸金業法19条は,取引履歴の開示義務を定めたものではなく,金融庁事務ガイドライン3―2―3は,行政上の監督に関する指針と考えられるもので,法的な権利義務を定めたものとは理解できないし,その内容も一般的な開示義務があるとしたものとは理解し難い。
 また,貸金業者と債務者との間には,契約関係があり,これに基づく権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行うべきものであるが,信義誠実の原則から,当然に,取引履歴の開示義務が導かれると解することも困難である。
(2)債務者の開示要求に対し,貸金業者が取引経過に関する情報を開示しないことが,信義誠実の原則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上,違法と評価される場合もあり得る。
 しかし,本件の場合,上告人は,債務を確定し債権者への平等弁済等を図るためではなく,過払金返還請求をするために,取引履歴の不開示による上告人の債務整理手続への影響等の個別事情は一切明らかにせず,取引履歴の開示要求をしたものであり,これに応じなかった被上告人の行為をもって,信義則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上違法と評価され,損害賠償義務が発生すると断定することは困難である。
(3)債務整理が遅れたことによる上告人の精神的負担は,消費貸借という取引行為に起因するものであるから,基本的には,過払金返還請求(遅延損害金を含む。)が認められることにより損害がてん補される関係に立つものというべきであり,それを超えた特別の精神的損害が発生するような事情は見当たらない。
3 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
(1)貸金業法19条及びその委任を受けて定められた貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)16条は,貸金業者に対して,その営業所又は事務所ごとに,その業務に関する帳簿(以下「業務帳簿」という。)を備え,債務者ごとに,貸付けの契約について,契約年月日,貸付けの金額,貸付けの利率,弁済金の受領金額,受領年月日等,貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項(貸金業者の商号等の業務帳簿に記載する意味のない事項を除く。)を記載し,これを保存すべき義務を負わせている。そして,貸金業者が,貸金業法19条の規定に違反して業務帳簿を備え付けず,業務帳簿に前記記載事項を記載せず,若しくは虚偽の記載をし,又は業務帳簿を保存しなかった場合については,罰則が設けられている(同法49条7号。貸金業法施行時には同条4号)。
(2)貸金業法は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結するに当たり,17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を債務者に交付し,弁済を受けた都度,直ちに18条1項所定の事項を記載した書面(以下,17条書面と併せて「17条書面等」という。)を弁済者に交付すべき旨を定めている(17条,18条)が,長期間にわたって貸付けと弁済が繰り返される場合には,特に不注意な債務者でなくても,交付を受けた17条書面等の一部を紛失することはあり得るものというべきであり,貸金業法及び施行規則は,このような場合も想定した上で,貸金業者に対し,同法17条1項及び18条1項所定の事項を記載した業務帳簿の作成・備付け義務を負わせたものと解される。
(3)また,貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払ったものについては,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えるものであっても,17条書面等の交付があった場合には有効な利息債務の弁済とみなす旨定めており(以下,この規定によって有効な利息債務の弁済とみなされる弁済を「みなし弁済」という。),貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限利率を超える約定利率で貸付けを行うときは,みなし弁済をめぐる紛争が生ずる可能性がある。
(4)そうすると,貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付けを受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。金融庁事務ガイドライン3―2―3(現在は3―2―7)が,貸金業者の監督に当たっての留意事項として,「債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から,帳簿の記載事項のうち,当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」と記載し,貸金業者の監督に当たる者に対して,債務内容の開示要求に協力するように貸金業者に促すことを求めている(貸金業法施行時には,大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第2の4(1)ロ(ハ)に,貸金業者が業務帳簿の備付け及び記載事項の開示に関して執るべき措置として,債務内容の開示要求に協力しなければならない旨記載されていた。)のも,このような貸金業法の趣旨を踏まえたものと解される。
(5)以上のような貸金業法の趣旨に加えて,一般に,債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことに鑑みると,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。
(6)前記事実関係によれば,上告人の取引履歴の開示要求に上記特段の事情があったことはうかがわれない。そして,上告人は,債務整理を弁護士に依頼し,被上告人に対し,弁護士を通じて,半年近く,繰り返し取引履歴の開示を求めたが,被上告人がこれを拒絶し続けたので,上告人は,その間債務整理ができず,結局,本件訴訟を提起するに至ったというのであるから,被上告人の上記開示拒絶行為は違法性を有し,これによって上告人が被った精神的損害については,過払金返還請求が認められることにより損害がてん補される関係には立たず,不法行為による損害賠償が認められなければならない。
4 以上と異なる見解に立って,上告人の被上告人に対する請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,慰謝料の額について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
       最高裁裁判長裁判官濱田邦夫,裁判官上田豊三 藤田宙靖 堀籠幸男

 社会倫理道徳違反の醜悪な不法行為の被害者が当該不法行為に係る給付により利益を得た場合と不法行為損害賠償請求における損益相殺の可否(最判平成20年6月10日民集62巻6号1488頁)

1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
2 いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
       主   文
 原判決のうち上告人らの敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人五葉明徳ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は,いわゆるヤミ金融の組織に属する業者から,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下「出資法」という。)に違反する著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けたと主張する上告人らが,上記組織の統括者であった被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
 2 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,著しく高利の貸付けにより多大の利益を得ることを企図して,甲の名称でヤミ金融の組織を構築し,その統括者として,自らの支配下にある第1審判決別紙2「被害明細表」の「店舗名」欄記載の各店舗(以下「本件各店舗」という。)の店長又は店員をしてヤミ金融業に従事させていた。
 (2)上告人らは,平成12年11月から平成15年5月までの間,それぞれ,第1審判決別紙2「被害明細表」記載の各年月日に同表記載の金銭を本件各店舗から借入れとして受領し,又は本件各店舗に対し弁済として交付した。そして,上記金銭の授受にかかわる利率は,同表の「利率」欄記載のとおり,年利数百%~数千%であった。
 (3)本件各店舗が上告人らに貸付けとして金員を交付したのは,上告人らから元利金等の弁済の名目で違法に金員の交付を受けるための手段にすぎず,上告人らは,上記各店舗に弁済として交付した金員に相当する財産的損害を被った。
 3 原審は,次のとおり判示して,被上告人について不法行為責任を認める一方,上告人らが貸付けとして交付を受けた金員相当額について損益相殺を認め,その額を各上告人の財産的損害の額から控除した上,原判決別紙認容額一覧表の「当審認容額」欄記載のとおり,上告人らの各請求を一部認容すべきものとした。
 (1)出資法5条2項が規定する利率を著しく上回る利率による利息の契約をし,これに基づいて利息を受領し又はその支払を要求することは,それ自体が強度の違法性を帯びるものというべきところ,本件各店舗の店長又は店員が上告人らに対して行った貸付けや,元利金等の弁済の名目により上告人らから金員を受領した行為は,上告人らに対する関係において民法709条の不法行為を構成し,被上告人は,甲の統括者として,本件各店舗と上告人らとの間で行われた一連の貸借取引について民法715条1項の使用者責任を負う。
 (2)本件各店舗が上告人らに対し貸付けとして行った金員の交付は,各貸借取引そのものが公序良俗に反する違法なものであって,法的には不法原因給付に当たるから,各店舗は,上告人らに対し,交付した金員を不当利得として返還請求することはできない。その反射的効果として,上告人らは,交付を受けた金員を確定的に取得するものであり,その限度で利益を得たものと評価せざるを得ない。
 (3)不法行為による損害賠償制度は,損害の公平妥当な分配という観点から設けられたものであり,現実に被った損害を補てんすることを目的としていると解される(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)ことからすると,加害者の不法行為を原因として被害者が利益を得た場合には,当該利益を損益相殺として損害額から控除するのが,現実に被った損害を補てんし,損害の公平妥当な分配を図るという不法行為制度の上記目的にもかなうというべきである。
 4 しかし,原審の上記3(3)の判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。従って,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。なお,原判決の引用する前記大法廷判決は,不法行為の被害者の受けた利益が不法原因給付によって生じたものではない場合について判示したものであり,本件とは事案を異にする。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。これと異なる原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そして,上告人らが請求し得る損害(弁護士費用相当額を含む。)の額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の意見(略)がある。
   最高裁裁判長裁判官那須弘平,裁判官藤田宙靖,同堀籠幸男,同田原睦夫,同近藤崇晴

 継続的な金銭消費貸借取引の基本契約が過払金をその後の新借入金債務への充当合意を含む場合の過払金返還請求権の消滅時効の起算点(最判平成21年3月6日裁判集民事230号209頁)

継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点
       主   文
 1 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
 3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人大田原俊輔の上告受理申立て理由について
 1 本件は,上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。被上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成したと主張してこれを争っている。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,昭和59年12月12日,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
 上告人と被上告人は,同日から平成18年6月8日までの間,本件基本契約に基づき,第1審判決別紙計算書の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下「本件取引」という。)。
 (3) 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 (4) 上告人は,平成19年2月2日に本件訴えを提起した。過払金充当合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,第1審判決別紙計算書記載のとおりであり,同日における過払金は404万9856円,同日までに発生した民法704条所定の利息は130万1687円である。
 (5) 被上告人は,平成9年2月2日以前の弁済によって発生した過払金に係る不当利得返還請求権については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
 3 原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を320万5334円及びうち245万4000円に対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
 消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するものであり,過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,発生時点において行使することができる権利である。上告人は,本件取引の継続中であっても,自ら弁済を停止し,取引履歴の開示を請求するなどして,本件取引により発生した過払金返還請求権を行使することが可能であったから,権利の行使につき法律上の障害は存在しない。
 従って,平成9年2月2日以前の弁済により発生した過払金に係る過払金返還請求権については,発生から10年間の経過により,消滅時効が完成した。平成9年2月3日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙計算書記載のとおり245万4000円であり,これに対する平成19年2月2日までに発生した民法704条所定の利息は75万1334円である。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。従って,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,これにより過払金返還請求権の行使が妨げられていると解するのが相当である。
 借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 従って,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日判決・裁判所時報1476号2頁参照)。
 5 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件取引がされていたのは昭和59年12月12日から平成18年6月8日までであったというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたことは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上説示したところによれば,上記消滅時効の成立を否定し上告人の請求を認容した第1審判決の結論は正当であるから,同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官那須弘平,裁判官藤田宙靖,同堀籠幸男,同田原睦夫,同近藤崇晴

 継続的な金銭消費貸借取引の基本契約が過払金をその後の新借入金債務への充当合意を含む場合の過払金返還請求権の消滅時効の起算点(最判平成21年3月3日裁判集民事230号167頁)

継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点
       主   文
 1 原判決を次のとおり変更する。
  (1) 第1審判決を取り消す。
  (2) 被上告人は,上告人に対し,635万8798円及びうち633万2772円に対する平成18年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人瀧康暢ほかの上告受理申立て理由第2章及び第3章について
 1 本件は,上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。被上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成したと主張してこれを争っている。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,遅くとも昭和54年1月18日までに,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
 上告人と被上告人は,同日から平成18年10月3日までの間,本件基本契約に基づき,第1審判決別紙1「原告主張書面」添付の計算書の「借入額」欄及び「返済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下「本件取引」という。)。
 (3) 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約は,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 過払金充当合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおりであり,最終取引日である平成18年10月3日における過払金は633万2772円,同日までに発生した民法704条所定の利息は2万6026円である。
 (4) 上告人は,平成19年1月11日に本件訴えを提起した。被上告人は,平成9年1月10日以前の弁済によって発生した過払金に係る不当利得返還請求権については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
 3 原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を375万9260円及びうち374万4000円に対する平成18年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
 過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,個々の弁済により過払金が生じる都度発生し,かつ,発生と同時に行使することができるから,その消滅時効は,個々の弁済の時点から進行するというべきである。
 上告人は,過払金返還請求権は,取引が終了した時点(本件においては平成18年10月3日)に確定し,その権利行使が可能になるから,上記時点を消滅時効の起算点と解すべきであると主張するが,借主は取引が終了するまで既発生の過払金の返還を請求できないわけではないから,上記主張は失当である。
 従って,平成9年1月10日以前の弁済により発生した過払金返還請求権については,発生から10年の経過により消滅時効が完成した。同日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおり374万4000円であり,これに対する平成18年10月3日までに発生した民法704条所定の利息は1万5260円である。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金は同債務に充当されることになるのであって,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。従って,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
 なお,借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから相当でない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 従って,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日判決・裁判所時報1476号2頁参照)。
 5 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件取引は平成18年10月3日まで行われていたというのであるから,上記消滅時効の期間が経過する前に本件訴えが提起されたことは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上説示したところによれば,上告人の請求は理由があるから,原判決を主文のとおり変更することとする。
 よって,裁判官田原睦夫の反対意見(略)があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁裁判長裁判官那須弘平,裁判官藤田宙靖,同堀籠幸男,同田原睦夫,同近藤崇晴

金銭消費貸借の基本契約が順次締結した場合における,取引の中断期間があるときと,自動継続条項があることを理由に先の基本契約に基づく過払金を後の基本契約の借入金債務に充当合意があるとはいえないとされた事例(最判平成23年7月14日)

金銭消費貸借に係る基本契約が順次締結されて借入れと弁済が繰り返された場合において,取引の中断期間があるにもかかわらず,各契約に当事者からの申出がない限り契約を継続する旨の定めがあることを理由に先の基本契約に基づく過払金を後の基本契約に基づく借入金債務に充当する合意があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人魚住直人,同塚原正典の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,上告人との間で,次の①ないし④の各期間における取引の開始時にそれぞれ金銭消費貸借に係る基本契約を締結して,①昭和56年4月10日から昭和58年12月24日まで,②昭和60年6月25日から昭和61年11月27日まで,③平成元年1月23日から平成10年4月6日まで,④平成12年8月7日から平成21年3月9日まで,第1審判決別紙計算書(1)記載の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引を行った(以下,上記各期間の取引に係る基本契約を順に「基本契約1」などという。)。
 (2) 基本契約1ないし基本契約3には,いずれも,当初の契約期間の経過後も,当事者からの申出がない限り当該契約を2年間継続し,その後も同様とする旨の定め(以下「本件自動継続条項」という。)がある。
 3 原審は,上記事実関係の下において,基本契約1ないし3には本件自動継続条項が置かれていることから,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまでの各期間のいずれにおいても,2年ごとの契約期間の自動継続がされていたとして,上記各期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は,事実上1個の連続した貸付取引であり,基本契約1ないし3に基づく取引により発生した各過払金をそれぞれ基本契約2ないし4に基づく取引に係る借入金債務に充当する旨の合意(以下「本件過払金充当合意」という。)が存在すると判断して,原告の請求を認容した。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約(以下「第1の基本契約」という。)が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第2の基本契約」という。)が締結され,第2の基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第2268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である(前記第二小法廷判決)。
 しかるに,原審は,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまで,それぞれ約1年6か月,約2年2か月及び約2年4か月の期間があるにもかかわらず,基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれていることから,これらの期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は事実上1個の連続した取引であり,本件過払金充当合意が存在するとしているのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。
 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 法廷意見が引用するように,最高裁平成20年1月18日第二小法廷判決は,中断期間を置いて複数の基本契約に基づく貸付取引が存在する場合に,事実上一個の連続した取引であると評価できるか否かは,取引の中断期間等のいわゆる6要素を考慮して決定されるべきものとしている。自動継続条項が存在することを主要な理由として取引の一連一体性を認める原審の見解によれば,中断期間の長短などは問題にならなくなるのであるから,原審の見解が上記判決の趣旨に沿わないことは明らかであろう。貸金業者の締結する金銭消費貸借基本契約に,本件と同様の自動継続条項が盛り込まれている場合が多いことは,当裁判所に顕著な事実であるところ,上記判決は,法律的には別個の基本契約が存在する場合に,これらに基づく実際の取引が中断していた期間の長短,その間における貸主と借主との接触の状況,新たな基本契約が締結されるに至る経緯といった,取引の事実上の側面に重点を置いた6要素を総合的に考慮して一個の連続した取引と評価し,充当合意を認定すべきものとするものであって,自動継続条項に基づく法律的・形式的な契約の継続は,考慮に加えるべき重要な要素として位置付けていないと解される。新たな取引とみるかどうかについて,このように事実上の側面に重点を置くことは,消費者等の取引当事者の通常の見方にも合致するように思われる。また,本判決の考え方は,過払金返還請求権の消滅時効の起算点を,特段の事情がない限り取引終了時とし,自動継続条項による基本契約の効力継続の点を問題にしていない,最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号247頁とも,整合的であると考えられる。
   最高裁裁判長裁判官金築誠志,裁判官宮川光治,同櫻井龍子,同横田尤孝,同白木 勇

 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合と消費貸借契約上の地位の移転・過払金返還債務の承継の有無(最判平成23年3月22日判例タイムズ1350号172頁)

貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における,借主と上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転の有無
       主   文
 1 原判決中,「219万5139円及びうち52万5611円に対する平成14年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄する。
 2 前項の部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を却下する。
 4 前項の部分に関する上告費用は,上告人の負担とする。
       理   由
 上告人の上告受理申立て理由第2について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である甲株式会社及び同社からその資産を譲り受けたB株式会社等を吸収合併しその権利義務を承継した上告人(以下,上告人及び合併に係る会社をその前後を問わず,単に「上告人」という。)との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,平成元年3月8日,甲との間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
 (2) 甲は,平成14年1月29日,上告人との間で,同年2月28日午後1時を契約の実行(クロージング)の日時(以下「クロージング日」という。)として,甲の消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
 本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日以降に発生し,かつ,クロージング日以降に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を,第1.4条(a)において,上告人は,第9.6条(b)に反しないで,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上の甲の義務又は債務(支払利息の返還請求権を含む。)を承継しない旨を定め,第9.6条(b)においては,「買主は,超過利息の支払の返還請求のうち,クロージング日以後初めて書面により買主に対して,または買主および売主に対して主張されたものについては,自らの単独の絶対的な裁量により,自ら費用および経費を負担して,これを防禦,解決または履行する。買主は,かかる請求に関して売主からの補償または負担を請求しない。」と定める。
 (3) 被上告人は,平成14年3月6日から同年5月17日まで,上告人に対し,被上告人と甲との間の金銭消費貸借取引に係る借入金の弁済を行った。
 (4) 被上告人は,被上告人と甲との間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)は上告人に承継されると主張して,被上告人と上告人との間の別個の金銭消費貸借取引により生じた過払金と併せ,その返還等を求めている。
 3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 (1) 本件譲渡契約の第9.6条(b)は,借主と甲との間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務のうち,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものについては,上告人においてこれを重畳的に引き受ける趣旨の定めである。本件債務は,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものであるから,上記の条項により,その責任において解決すべきものとして,上告人がこれを重畳的に引き受け,承継したといえる。
 (2) 仮にそうでないとしても,本件譲渡契約は,借主と甲との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転をその内容とするのであり,被上告人がこれを黙示的に承諾したことにより,上告人が甲の上記地位を包括的に承継するという法的効果が生じたといえる。上告人において,その承継する義務の範囲を争うことは許されない。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,本件譲渡契約は,第1.3条及び第1.4条(a)において,上告人は本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これらの条項と対照すれば,本件譲渡契約の第9.6条(b)が,上告人において第三者弁済をする場合における求償関係を定めるものであることは明らかであり,これが置かれていることをもって,上告人が本件債務を重畳的に引き受け,これを承継したと解することはできない。
 そして,貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできないところ,上記のとおり,本件譲渡契約は,上告人が本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これが,被上告人と甲との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地もない。
 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,原審における不服申立ての範囲である219万5139円及びうち52万5611円に対する平成14年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,上告人は,不服申立ての範囲を原審におけるものより拡張し,これを219万5139円及びこれに対する平成21年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分とする旨の「上告受理申立書」を当審に提出したが,当審において不服申立ての範囲を拡張することは許されないから,拡張部分に関する上告は却下すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官大谷剛彦,裁判官那須弘平,同田原睦夫,同岡部喜代子

 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合と消費貸借契約上の地位の移転・過払金返還債務の承継の有無(最判平成23年7月8日)

貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における,借主と上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転及び上記取引に係る過払金返還債務の承継の有無
       主   文
 1 原判決中,「93万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人前田陽司,同黒澤幸恵,同二瓶ひろ子の上告受理申立て理由について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である株式会社甲及び同社からその資産を譲り受けた上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,昭和63年8月19日,甲との間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
 (2) 甲は,平成14年3月29日,上告人との間で,同年5月2日を契約の実行日(以下「クロージング日」という。)として,甲の消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
 (3) 本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日後に発生し,かつ,クロージング日後に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を,第1.4条において,上告人は,第1.3条に明記するものを除き,甲のいかなる義務又は債務も承継しない旨を定め,第1.4条(子)において,上告人の承継しない義務又は債務の例として,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上の甲の義務又は債務(支払利息の返還請求権を含む。)を挙げる。
 (4) 被上告人は,上告人との間で,平成14年6月3日から平成20年10月27日まで,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引を行った。
 (5) 被上告人は,被上告人と甲との間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)は当該取引に係る貸金債権と表裏一体のものとして上告人に承継されると主張する。
 3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 (1) 本件譲渡契約は営業譲渡契約であるから,特段の事情のない限り,甲の営業に関する債権のみならず,金銭消費貸借取引に係る契約上の地位も上告人に移転したというべきである。本件において,上記特段の事情は認められず,上告人は甲から本件債務も承継したといえる。
 (2) 上告人は,本件譲渡契約には上告人において本件債務を承継しない旨の定めがあると主張する。しかし,被上告人と甲との間で締結された金銭消費貸借取引に係る基本契約は,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むもので,貸金債権と過払金返還債務は表裏一体として密接に関連する。この場合,原則として貸金債権と過払金返還債務を別個に処分することはできず,本件譲渡契約に上記定めがあることは,被上告人の地位を左右しない。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転する,あるいは,譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を上記譲渡の対象に含まれる貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない(最高裁平成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小法廷判決・裁判集民事236号参照)。そして,このことは,借主と譲渡業者との間で締結された金銭消費貸借取引に係る基本契約が,過払金充当合意を含むものであったとしても異ならない。
 前記事実関係によれば,本件譲渡契約において,上告人は本件債務を承継しない旨が明確に合意されているのであって,上告人は本件債務を承継せず,その支払義務を負わないというべきである。
 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,不服申立ての範囲である93万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官須藤正彦,裁判官古田佑紀,同竹内行夫,同千葉勝美

 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合と消費貸借契約上の地位の移転及び過払金返還債務の承継の有無(最判平成23年7月7日)

貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における,借主と上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転及び上記取引に係る過払金返還債務の承継の有無
       主   文
 1 原判決中,「106万0061円及びこれに対する平成21年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄する。
 2 前項の部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告人の上告受理申立て理由について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である株式会社甲及び同社からその資産を譲り受けた上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,平成5年11月12日,甲との間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
 (2) 甲は,平成14年3月29日,上告人との間で,同年5月2日を契約の実行日(以下「クロージング日」という。)として,甲の消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
 (3) 本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日後に発生し,かつ,クロージング日後に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を定め,第1.4条(子)において,上告人の承継しない義務又は債務の例として,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上の甲の義務又は債務(支払利息の返還請求権を含む。)を挙げる。
 (4) 被上告人は,上告人との間で,平成14年5月8日,新たに金銭消費貸借に係る基本契約を締結して,同日から平成20年12月19日まで,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
 (5) 被上告人は,被上告人と甲との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位は上告人に承継され,これに伴い,当該取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)も上告人に承継されると主張する。
 3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 (1) 本件譲渡契約は営業譲渡契約であるから,特段の事情がない限り,甲の営業に関する債権のみならず,金銭消費貸借取引に係る契約上の地位も上告人に移転したというべきである。
 (2) 上告人は,本件譲渡契約には上告人において本件債務を承継しない旨の定めがあると主張する。しかし,金銭消費貸借取引に係る基本契約に基づく貸金債権と過払金返還債務とは表裏一体の関係にあり密接に関連するところ,過払金返還債務のみを承継の対象から除外すると,借主は取引期間全体につき弁済金の充当計算をして過払金の返還を請求する利益を喪失するのであるから,借主がこのことを承知の上で金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を承諾したなど特段の事情がない限り,過払金返還債務も承継の対象になるというべきである。本件において,上記特段の事情は認められず,本件債務は上告人に承継され,上記のような定めがあることは,本件債務の承継を否定する根拠にならない。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転する,あるいは,譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を上記譲渡の対象に含まれる貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない(最高裁平成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小法廷判決・裁判集民事236号登載予定参照)。そして,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る基本契約が,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであったとしても,借主は当然に貸金債権の一括譲渡の前後を通算し弁済金の充当計算をして過払金の返還を請求する利益を有するものではなく,このような利益を喪失することを根拠に,譲受業者が上記取引に係る過払金返還債務を承継すると解することもできない。
 前記事実関係によれば,本件譲渡契約において,上告人は本件債務を承継しない旨が明確に合意されているのであって,上告人は本件債務を承継せず,その支払義務を負わないというべきである。
 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,不服申立ての範囲である106万0061円及びこれに対する平成21年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官櫻井龍子 裁判官宮川光治,同金築誠志,同横田尤孝,同白木 勇

届出のない再生債権たる過払金返還請求権につき届出ある再生債権と同じ条件で弁済する旨の再生計画と過払金返還請求権の帰すう(最判平成23年3月1日判例タイムズ1347号98頁)

届出のない再生債権である過払金返還請求権について,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定める再生計画と上記過払金返還請求権の帰すう
       主   文
 1 原判決を次のとおり変更する。
   第1審判決を次のとおり変更する。
  (1) 上告人は,被上告人に対し,平成23年6月1日限り30万円及びうち23万6614円に対する同月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 被上告人のその余の請求を棄却する。
 2 訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人高井章光ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は,被上告人が,貸金業者である甲を再生債務者とする民事再生手続における再生計画認可の決定が確定した後に同社の権利義務を承継した上告人に対し,乙と甲との間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金に係る不当利得返還請求権が再生計画の定めにより変更されたとして,変更後の債権(以下「本件債権」という。)の元本である30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,本件債権について,再生計画において猶予期間が定められているから,その弁済期は到来しておらず,被上告人において,その支払を求めることはできないなどと主張して争っている。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 乙は,甲との間で,平成9年7月9日から平成13年5月1日までの間,第1審判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおり,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借取引(以下「本件取引」という。)を行った。
 (2) 乙は,平成18年3月1日,死亡した。その後,乙の相続人全員が相続を放棄し,平成20年11月18日,丙が被上告人の相続財産管理人に選任された。
 (3) 甲は,平成19年9月14日,東京地方裁判所に再生手続開始の申立てをした。同裁判所は,同月21日,再生手続開始の決定(以下「本件再生手続開始決定」という。)をし,平成20年8月20日,再生計画認可の決定をした(以下,この決定を「本件再生計画認可決定」といい,これにより認可された再生計画を「本件再生計画」という。)。本件再生計画認可決定は,同年9月17日,確定した。
 (4) 本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権(その利息,損害金等の請求権を含む。以下同じ。)について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるとともに,要旨次のとおり,権利の変更の一般的基準を定める。
 ア 確定した再生債権(本件再生手続開始決定の日以降の利息,損害金を除く。以下同じ。)の40%相当額を弁済し,その余につき免除を受ける。ただし,確定した再生債権の額が30万円以下である場合はその全額を,30万円を超える場合は40%相当額と30万円の多い方の額を弁済する。
 イ 届出のない再生債権である過払金返還請求権については,その債権者により請求がされ,再生債権が確定した時(訴訟等の手続がされている場合には,その手続によって債権が確定する。),上記アのとおり権利の変更を受け,その時から3か月以内に,上記アに定める額を弁済する。
 (5) 本件取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,本件再生手続開始決定の日の前日である平成19年9月20日までに過払金23万6614円,民法704条所定の利息7万6538円が発生し,その合計は31万3152円であった(以下,上記過払金及び利息の支払請求権を「本件再生債権」という。)。本件再生債権について,再生債権の届出はない。
 (6) 上告人は,平成20年10月1日,甲との間で,同社の事業を上告人が承継する旨の吸収分割契約を締結して,甲が本件取引に関して有する一切の権利義務を承継した。
 3 原審は,上記事実関係の下において,本件再生計画によれば,本件再生債権は,訴訟等の手続がされている場合には,判決の確定等によってはじめて確定するのであって,本件再生債権の確定を前提とする本件再生計画の定めによる権利の変更は未だ生じていないから,弁済期の未到来をいう上告人の主張は失当であるし,被上告人において過払金元本を超える部分に対する遅延損害金を請求することもできないと判断して,被上告人の請求を全部認容した第1審判決を変更し,これを30万円及びうち23万6614円に対する平成21年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容すべきものとした。
 4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 民事再生法178条本文は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生計画の定め又は同法の規定によって認められた権利を除き,再生債務者は,すべての再生債権について,その責任を免れると規定する。そして,同法179条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,届出債権者等の権利は,再生計画の定めに従い,変更されると規定し,同法181条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生債権者がその責めに帰することができない事由により届出をすることができなかった再生債権(同項1号)等は,再生計画による権利の変更の一般的基準(同法156条)に従い,変更されると規定する。
 (2) 前記事実関係によれば,本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるが,これは,過払金返還請求権については,届出のない再生債権についても一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱う趣旨と解され,上記過払金返還請求権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更され,その再生債権者は,訴訟等において過払金返還請求権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,上記のとおり変更されたところに従って,その支払を受けられるものというべきである。
 (3) 以上によれば,本件再生債権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更されており,被上告人は,訴訟等において本件再生債権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,その元利金31万3152円のうち30万円について,本件再生債権が確定された日の3か月後に支払を求めることができる本件債権を有するにとどまるものというべきであり,その弁済期は,本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来していないことが明らかである。
 5 したがって,前記事実関係の下において,弁済期未到来をいう上告人の主張を排斥して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
 そして,本件の事案の性質,その審理の経過等に鑑みると,被上告人の請求は,審理の結果,本件債権の弁済期が到来していないと判断されるときは,その弁済期が到来した時点での給付を求める趣旨を含むものと解するのが合理的であり,また,本件においては,あらかじめその請求をする必要があると認められる。
 以上説示したところによれば,被上告人の請求は,上告人に対し,本判決確定の日の3か月後の日である平成23年6月1日限り本件債権の元本である30万円及びこれに対するその翌日である同月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきところ,被上告人から上告がない本件において,原判決を上告人に不利益に変更することは許されないから,原判決を主文のとおり変更するにとどめることとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官田原睦夫,裁判官那須弘平,同岡部喜代子,同大谷剛彦

 継続的金銭消費貸借基本契約と債務の弁済が借入金全体に対して行われる場合の利息制限法1条1項の「元本」額(最判平成22年4月20日民集64巻3号921頁)

1 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合における利息制限法1条1項にいう「元本」の額
2 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合において,上記取引の過程におけるある借入れの時点で従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における下限額を下回るに至ったときに,上記取引に適用される制限利率
       主   文
 原判決中,上告人の敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
       理   由
 上告代理人金高望ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,被上告人との間で締結した基本契約に基づき,継続的に金銭の借入れと弁済を繰り返した上告人が,各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下,この部分を「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生するとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金71万1523円の返還等を求める事案である。
 本件では,取引が当初20万円の借入れから始まり,その後新たな借入れと弁済が繰り返されることにより借入残高に増減が生じたことから,このように借入残高が増減する取引における過払金の計算上,何をもって利息制限法1条1項にいう「元本」の額と解すべきかが争われている。
 2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,これに基づき,平成9年12月18日から平成19年12月3日までの間,原判決別紙計算書の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下「本件取引」という。)。
 (2) 本件基本契約において定められた利息の利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超えるものであった。
 (3) 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであった。
 (4) 本件取引開始当初の借入金額は20万円であり,その後も,各弁済金のうち利率を年1割8分として計算した金額を超えて利息として支払われた部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,各借入れの時点における残元本額(従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額)は,100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点では,残元本額が10万円未満となった。
 3 原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,本件取引に適用される制限利率を平成17年12月5日までは年1割8分,同月6日以降は年2割であるとして,上告人の請求を過払金67万9654円の返還等を求める限度で認容した。
 (1) 基本契約に基づき継続的に借入れと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引において,基本契約に定められた借入極度額は,当事者間で貸付金合計額の上限として合意された数値にすぎず,これをもって,利息制限法1条1項所定の「元本」の額と解する根拠はない。そして,上記の取引の過程で新たな借入れがされた場合,制限利率を決定する基準となる「元本」の額は,従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,約定利率ではなく制限利率により弁済金の充当計算をした結果得られた額と解するのが相当である。
 (2) 本件取引においては,取引の開始から平成17年12月6日の借入れが行われる前までは,各借入れの時点における上記意味での元本の額は終始10万円以上100万円未満の金額で推移しており,その間の取引については,年1割8分の制限利率を適用すべきである。
 (3) しかし,平成17年12月6日の借入れの時点では,上記意味での元本の額は10万円未満となるに至ったのであるから,同日以降の取引については,年2割の制限利率を適用するのが相当である。
 4 しかしながら,原審の上記3の判断のうち,(1)及び(2)は是認することができるが,(3)は是認できない。その理由は,次のとおりである。
(1) 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。この場合,従前の借入金残元本の額は,有効に存在する利息の約定を前提に算定すべきことは明らかであって,弁済金のうち制限超過部分があるときは,これを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算することになる。
 そして,上記取引の過程で,ある借入れがされたことによって従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における上限額を超えることになったとき,すなわち,上記の合計額が10万円未満から10万円以上に,あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは,上記取引に適用される制限利率が変更され,新たな制限を超える利息の約定が無効となるが,ある借入れの時点で上記の合計額が同項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく,上記取引に適用される制限利率が変更されることはない。
 (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件取引開始当初の借入金額は20万円であったというのであるから,この時点で本件取引に適用される制限利率は年1割8分となる。そして,各弁済金のうち制限超過部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,その後,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額は100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点に,上記の合計額が10万円未満となったというのであるが,これが10万円未満に減少したからといって,適用される制限利率が年2割に変更されることはない。
 そうすると,同日以降の取引に年2割の制限利率を適用するのが相当であるとした原審の判断には,利息制限法1条1項の解釈適用の誤りがあり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨のうち,この趣旨をいう部分は理由がある。
 5 以上によれば,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れず,上記の見地に立って過払金額を確定させるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官那須弘平,裁判官藤田宙靖,同堀籠幸男,同田原睦夫,同近藤崇晴

 基本契約のない場合と,第1の貸付けに係る過払金をその後第2の貸付債務への充当の可否(最判平成19年2月13日民集61巻1号182頁)

1 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否
2 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率
       主   文
 1 原判決中,被上告人に関する部分のうち,本訴請求に関する部分並びに反訴請求に関する部分のうち100万円及びこれに対する平成16年12月1日から支払済みまで年30%の割合による金員の支払を求める部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人馬場正裕の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件本訴請求事件は,被上告人が上告人に対し,平成5年3月及び平成10年8月の2回の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると原判決別紙利息制限法計算書3のとおり過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金416万9976円及びこれに対する年6分の割合(商事法定利率)による民法704条前段所定の利息の支払を求める事案であり,本件反訴請求事件は,上告人が被上告人に対し,上記各貸付けに係る債務の各弁済には,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条1項の規定が適用されるから,利息の制限額を超える部分の支払も有効な利息の債務の弁済とみなされるとして,上記各貸付けの残元本合計393万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,貸金業法3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2)ア 上告人は,平成5年3月26日,被上告人に対し,300万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件第1貸付け」という。)。
(ア)利息 年40.004%
(イ)支払方法 最終支払日を平成5年5月末日とし,同日限り元本及び利息を持参して支払う。
 イ 上告人と被上告人は,平成5年5月末日ころ,本件第1貸付けについて,元本の弁済期を期限の定めのないものとする旨合意した。
 ウ 被上告人は,平成5年4月26日から平成15年12月19日までの間,上告人に対し,本件第1貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙利息制限法計算書1の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の各金銭を支払った。
 エ 上記ウの各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,平成8年10月31日以後,過払金が発生している。
(3)ア 上告人は,平成10年8月28日,被上告人に対し,100万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件第2貸付け」といい,これと本件第1貸付けとを併せて「本件各貸付け」という。)。
(ア)利息 年40.004%
(イ)支払方法 最終支払日を平成10年9月27日とし,同日限り元本及び利息を持参して支払う。
 イ 上告人と被上告人は,平成10年9月27日ころ,本件第2貸付けについて,元本の弁済期を期限の定めのないものとする旨合意した。
 ウ 被上告人は,上告人に対し,本件第2貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙利息制限法計算書2の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の各金銭を支払った。
(4)上告人と被上告人との間で,継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約(以下,単に「基本契約」という。)は締結されていない。
 3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の本訴請求を全部認容すべきものとし,上告人の反訴請求を全部棄却すべきものとした。
(1)本件各貸付けに係る債務の各弁済に当たって貸金業法18条1項所定の要件を具備した書面が被上告人に交付されていないので,上記各弁済については,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2)同一の貸主から複数の貸付けを受ける借主としては,基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される場合でなくても,過払金を考慮して全体として借入総額が減少することを望み,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることは望まないのが通常の合理的意思であると考えられ,過払金が発生した後に別口の借入金が発生したときであっても,その別口の借入金の弁済に過払金を充当する意思を有していると推認するのが相当であるから,上告人と被上告人との間で基本契約が締結されておらず,本件第1貸付けについて過払金が発生した平成8年10月31日の後に,本件第2貸付けに係る債務が発生したものであるとしても,本件第1貸付けについての過払金は,本件第2貸付けに係る債務に当然に充当されると解される。
(3)本件各貸付けに係る債務についての過払金は,上告人の不当利得となるが,上告人は,上記過払金が発生した時点から民法704条の悪意の受益者というべきである。
(4)上記過払金の返還債務は,実質的に,上告人の商行為によって生じた債務というべきであり,また,上告人が,過払金を営業のために使用し,収益を上げているのは明らかであるから,上告人が上記債務に付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,商事法定利率の年6分と解すべきである。
 4 しかし,原審の上記3(2)及び(4)の判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
(1)原審の上記3(2)の判断について
 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」という。),その後,同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。何故なら,そのような特段の事情のない限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである。
 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,上告人と被上告人との間で基本契約は締結されておらず,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生した平成8年10月31日の後に,本件第2貸付けに係る債務が発生したというのであるから,上記特段の事情のない限り,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち過払金となる部分は,本件第2貸付けに係る債務に充当されないというべきである。
 そうすると,本件において上記特段の事情の有無について判断することなく,上記過払金となる部分が本件第2貸付けに係る債務に当然に充当されるとした原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2)原審の上記3(4)の判断について
 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。何故なら,商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,上記過払金についての不当利得返還請求権は,高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって,営利性を考慮すべき債権ではないので,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできないからである。これと異なる原審の上記3(4)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,被上告人に関する部分のうち,本訴請求に関する部分並びに反訴請求に関する部分のうち100万円及びこれに対する平成16年12月1日から支払済みまで年30%の割合による金員の支払を求める部分(本件第2貸付けについての請求部分)は破棄を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,その余の部分に関する上告については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官那須弘平,裁判官上田豊三,同藤田宙靖,同堀籠幸男,同田原睦夫

 貸金業法施行規則15条2項の法適合性(最判平成18年1月13日民集60巻1号1頁)

1 貸金業の規制等に関する法律施行規則15条2項の法適合性
2 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
3 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を広島高等裁判所に差し戻す。
       理   由
第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2)被上告人は,平成12年7月6日,上告人P1に対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人P2は,同日,被上告人に対し,上告人P1の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア 利息 年29%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 返済方法 平成12年8月から平成17年7月まで毎月20日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約 上告人P1は,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
 (3)被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,上告人P1に対し,「貸付及び保証契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
 貸付及び保証契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年29.2%とする約定が記載されていた。
 (4)上告人P1は,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 被上告人は,上告人P1に対し,本件各弁済の都度,直ちに「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
 本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,上告人らに対し,本件貸付けの残元本189万4369円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原審は,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
第2 上告代理人山口利明の上告受理申立て理由二(1)について
 後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人P1が支払期日に利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人P1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 しかし,法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,同項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に対して交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を相手方に正確に知らしめることによって,後日になって当事者間にその内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。従って,法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。
 そうすると,上告人P1と被上告人が合意した本件期限の利益喪失特約の内容を正確に記載している貸付及び保証契約説明書は,法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(平成12年総理府令第148号による改正前のもの)所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
 以上と同旨の原審の判断は正当として是認できる。論旨は採用できない。
第3 同二(2)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 施行規則15条2項は,貸金業者は,法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり,契約年月日の記載がなくとも,契約番号の記載により,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから,契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。
 2 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)法18条1項が,貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図るためであるから,同項の解釈にあたっては,文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。
 同項柱書きは,「貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして,同項6号に,「前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項」が掲げられている。
 同項は,その文理に照らすと,同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は,同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。従って,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
 (2)上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
 (3)以上と異なる見解に立って,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
第4 同二(3)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は,何ら不合理なものとはいえず,また,債務者が,この合意により,約定利息の支払を強制されることになるということはできないから,上告人P1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
 2 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
 (1)法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が,利息の制限額を超える場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等に鑑みると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきである(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日判決・民集58巻2号475頁参照)。
 そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解される(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日判決・民集44巻1号332頁参照)けれども,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 (2)本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,上告人P1は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は,上告人P1に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人P1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,上告人P1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるといえる。
 従って,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人P1が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
第5 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

    最高裁裁判長裁判官中川了滋,裁判官滝井繁男,同津野 修,同今井 功,同古田佑紀

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